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目を見張るレンコン増収効果 硫化水素ガスを分解 光合成細菌の可能性拡大

目を見張るレンコン増収効果 硫化水素ガスを分解 光合成細菌の可能性拡大
 価格高騰の続く農業資材の中で、減肥の取組みは生産費の低減にとって大きなテーマ。水稲など水田作物で減肥を成功させるには根腐れリスクを軽減し、肥料を効率よく吸収できる根を維持する必要があり、期待を集めているのが、水田に湧くガス(硫化水素ガス)を分解する微生物の光合成細菌。それを安価で簡単に利用できる「光合成細菌培養キット くまレッド」に、水稲農家だけでなくレンコン農家にも関心が拡がっている。生育期間中に水を抜くことができないレンコン水田は、ガス湧き対策としての中干しが行えない。新潟県と石川県のレンコン産地での「くまレッド」実証試験の取材から、レンコン水田での効果的なガス湧き対策のヒントが見えてくると期待し紹介する。

くまレッド事例紹介

 
    洗浄処理あとの新潟県の「五泉美人レンコン」

 「くまレッド」はCiamo(熊本市)が開発・製造し、誠和アグリカルチャ(栃木県下野市)が販売。Ciamoは、代表取締役社長の古賀碧氏が崇城大学在学中に「光合成細菌」と出身地の「球磨焼酎の焼酎粕」の有効利用を考えて立ち上げたべンチャー企業。米作りの障害となっている硫化水素ガスを見事に分解する「光合成細菌」が、水田の最適な土壌環境を作り出すために重要な役割を担っていることを知った古賀氏は、光合成細菌の中でも特に稲ワラ由来のガスの分解を得意とする光合成細菌「紅色非硫黄細菌」を選び出した。球磨焼酎の焼酎粕を培地に活用することで誰でも簡単に自家培養ができる「くまレッド」が、2018年ついに誕生した。

 新潟県では、「五泉美人」を出荷する五泉レンコン生産組合の伊藤弥組合長と、JA新潟かがやき五泉アグリセンターの小日山惇営農指導員に話を伺った。水田のガス湧きを特に意識したことはなかった産地だったが、新潟地域振興局普及指導員から「くまレッド お試し培養(2ℓ)キット」を紹介され、光合成細菌に興味を持ったのがきっかけ。分枝開始の3~4週間後の同組合試験圃水田10aに、「お試し培養キット」の元菌50㏄から自家培養した光合成細菌40ℓを7月8日に投入し施用区とした。ほぼ同時期に植え付けた圃場を慣行区として比較観察を普及指導員と共に行った。

 令和4年は全般的に恵まれた天候と評される一方で、「6月後半の強風で茎葉が傷み、8月お盆時期の日照不足もあって生育停滞が明らかだった。初期成育に遅れがあった施用区は8月後半あたりから茎葉の回復ぶりが目立ち、台風襲来後の9月20日頃には茎葉の高さや葉の密集度が慣行区に追いついているのがわかった」と話す伊藤組合長は、毎週生育調査に通って来ていた普及指導員から「9月になると遠目からでも良好な回復ぶり」との評価を聞き、光合成細菌による生育促進効果を実感したという。

 11月のレンコン収穫時に、小さすぎる規格外が少ないと感じ、収穫量は平年(過去5年の試験圃場の平均収量)と比較すると1割程度多かったという。「天候に恵まれた令和4年産の1割増収が光合成細菌による効果と明言はできないが、初期生育の遅れを挽回したのは事実。失敗したくない生産者の一人として、光合成細菌による生育促進効果は頼りにしてもよさそうだ。洗浄調整の際に『肌のキレイな良品が多い』との組合員の声も聞こえた」と伊藤組合長は結果を振り返っている。
 今年3月の総会でこの結果を聞いた組合員13人のうち8人が「くまレッド お試し培養キット」での自家培養に挑戦することになった。令和4年の培養を担当した小日山営農指導員は「培養中の2ℓペットボトルは世話もせずほったらかしていたので、手間がかかった覚えはない。でも、気温が低い日が続いたせいかなかなか赤くならず、培養ができているのか?と心配はした」と振り返っている。「手間も心配も実際にやってみて慣れてしまえば問題にならないと思えるし、何より『転ばぬ先の杖』として分枝が始まる時期に20ℓ程度を投入すれば、生産者の負担にはならないコスト」と今後の取組に前向きなコメントをしていた。

 一方、石川県では、かほく潟で約5・5‌haのレンコン栽培をする農事組合法人Oneの番匠雄大さんに話を伺った。
 同法人は10人の従業員のうち4~5人でレンコン圃場を管理。以前から水質改善に関心があったOneでは、番匠さんの前任者が注目した「光合成細菌」を試すこととなった。分枝時期の6月8日に1区画(50a)あたり光合成細菌を50ℓ(10aあたり10ℓ)と100ℓ(同20ℓ)を投入し、2つの施用区とした。
 概ね天候には恵まれ全区画の生育は順調であったが、春の強風で茎が折れたりしていた。7月20日の施用区は厚みのある葉で茎葉の高さが揃うなど「回復が早く、かつて見たことが無いほどの良い調子」と話している。
 Oneが注目した光合成細菌による効果は、硫化水素ガスの分解よりも空中窒素の固定。「光合成細菌の流し込みから数日後に通常は見えない時期に藻類が水面に上がってきたので、『あー!これが窒素固定っていうことかもしれない!』と他の担当者とも話した」と番匠さん。12月~1月に収穫完了した各施用区と慣行区のサイズ別収量を比較したところ、「もちろん慣行区も平年に比べて良かったが、施用区では収穫舟に載せない規格外の小さいものが少なく、ヒモと呼ばれる部位のレンコンもそれなりの大きさがあって小サイズ(110g~350g)の収穫が増えた。350g以上の大サイズも増え、施用区は10数%程度の増収結果となっていた。この結果が、恵まれた天候によるのか、光合成細菌によるのかは定かではないが、令和5年も分析していこうと思う。『光合成細菌の投入量が多いほど大きなサイズが多いよね』と他の担当者とも共有し、光合成細菌による生育回復や追肥(窒素固定)効果は確かであったと思う」と話している。

 これらを踏まえ、「今年は分枝の始まる前の5月中に施用時期を早めて、新しい圃場にも拡げてみる計画。そのため、計1000ℓの光合成細菌の培養は5月のゴールデンウィークに開始する」と、本格的な利用に前向きになってきている。
 今回の「五泉レンコン」、「かほく潟レンコン」への取材で、光合成細菌がレンコンの生育促進に効果を発揮すると感じたと同時に、自家培養がポイントであると感じた。



「くまレッド」が光合成細菌の自家培養の手間と不安を解決できることが知られたら、減肥対策資材として十分に魅力的であることが取材を通じて理解することができた。

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