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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -8- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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発動機の普及に向け どのような試験が行われたか

 農業の場面では負荷の変動が大きいため、発動機の試験はこの点を考慮して行われている。少し専門的になるが、1925年(大正14年)比較審査に於ける第一次審査の性能試験は「30分間の全負荷運転後各種測定を開始し、1時間以内に終了する。直流発電機による制動馬力、燃料消費量、調速作用状況、取扱性、材料及び工作等について精細な検査を行う」。第二次審査では「無負荷で30分間、半負荷で30分間、全負荷で4時間、過負荷で10分間の連続運転を行い、各負荷に於ける制動馬力、燃料消費量を厳密に測定して連続運転の適否を検定するとともに運転中の振動の強弱を試験する」。最終審査では「第一次、第二次審査成績の比較、工場施設、過去の経歴等により決定する」としている。
 次に行われた1930年(昭和5年)の比較審査の第一次審査では「全負荷で2時間の連続運転、終了後直に全負荷より無負荷に、無負荷より全負荷へと負荷を急変させて調速変動を記録」。第二次審査では「無負荷で30分間、半負荷で30分間、全負荷で4時間、過負荷で10分間及び分解調査」などである。1937年(昭和12年)小型重油発動機比較審査の第一次審査では「4時間の全負荷連続運転、過負荷運転と無負荷運転を各10分間、水制動機を用いた調速試験」など。第二次審査では「1/4負荷で30分間、1/2負荷で30分間、3/4負荷で1時間、全負荷で1時間、過負荷で10分間、無負荷で30分間の間に各々回転速度線図、排気温度、排気の色、冷却水温、燃料消費量、軸馬力」等を測定している。当時を知る研究者は「最高の検査施設だったが、水動力計の水温調節には苦労した」、また、ヤンマー農用ディーゼルエンジン1号機の写真(写真)を見つけるなり「これは貴重だ、よく残っていたなあ」と感慨深げだった。なお、この1号機は社史「ヤンマー100年史」にも記されているとおり、1930年(昭和5年)の比較審査に出品するも、当時比較対照可能な発動機がなく、無審査扱いで農林省が研究用として買い上げたという。
 1927年(昭和2年)農事試験場事務功程によると、発動機の用途が脱穀調製に偏っていたことからその利用拡大に取組み、農場用自動運搬車、自動運搬船については実用的価値を認め、1932年(昭和7年)に研究を終了した。発動機に比しやや普及は遅れるが、交流電動機は脱穀調製等定置型の作業に利用され始める。1927年には風力や水力等天然力利用の研究が始まった。小型風車の開発により、簡易発電した電気を蓄電して走る電気自動運搬車や、風力・水力の揚水機などへの適用性について1941年(昭和16年)頃まで検討された。なお、空冷式発動機は小型軽量なことから、戦後見直され広く用いられるようになった。


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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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