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【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐17- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐17- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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ゲノム編集はGMとは違う道を

 新技術である「ゲノム編集」を使って、毒を作る遺伝子を切断すると毒がないジャガイモができ、成長を止める遺伝子を切断すると大きな魚ができ、病原体の受容体を作る遺伝子を切断すると感染症にならない健康な家畜ができます。農畜水産業のためにとても重要な技術です。
 実は一足先に実用化した遺伝子組換え(GM)も農業を大きく変えた夢の技術といわれ、世界で広く使われています。ところが環境保護団体が強力な反対運動を続け、世界の多くの人がGMに不安を感じて、日本でもEUの多くの国でも栽培されていません。
 遺伝子に変更を加える点では同じなので、ゲノム編集もGMと同じ運命をたどる恐れがあります。そうならないように、GMが嫌われた原因を検証し、それを繰り返さない努力が行われています。それではGMはなにを失敗したのでしょうか。
 現在のGMの大部分が除草剤を散布しても枯れない除草剤耐性GMと、害虫の被害を受けにくい害虫抵抗性GMです。農業労働の大きな部分を占める除草と害虫駆除が簡単になり、とくに米国の大規模農家の圧倒的な支持を受けてGMは広がりました。
 ところが環境保護団体は、除草剤耐性GMに使用する除草剤ラウンドアップががんの原因になると主張し、害虫抵抗性GMは害虫以外の昆虫も殺して環境を破壊すると言っています。
 もちろんGMの安全性も環境に対する影響も世界の研究機関が厳しく審査して、安全が確認されたものだけが許可されているのですが、多くの人が環境保護団体の主張を信じています。
 その大きな原因は、GMが農家だけの利益だという誤解です。GMは農産物の安定供給を助け、価格を安定させるという大きな利益があるのですが、これは消費者には見えにくい利益です。多くの人は、自分にとってGMはなんの利益もないだけでなく、逆に健康や環境にとって悪いことばかりだと感じ、この不公平感がGM嫌いを増やしたのです。
 GMの安全性を判断するためには情報が必要です。GMには「安全」と「危険」の両方の情報があるのですが、圧倒的に多くの人が「危険」情報を信じます。そのほうが自分と家族の安全を守れるという本能的な判断です。これもまたGM嫌いが増えた原因です。
 農家の人も消費者ですが、なぜGMを受け入れたのでしょうか。これも人間の本能で、自分に利益があるときには「安全」情報を信じるのです。例えば車の運転や喫煙の大きなリスクは誰でも知っています。それでも運転や喫煙を続ける人は、自分だけは大丈夫と判断しているのです。
 この話は農薬にも通じるもので、農家の利益のために消費者の健康が無視されているという不公平感が生まれて農薬嫌いが増え、農家は自分が食べる作物だけ農薬を使わないなどという都市伝説までが生まれたのです。
 この反省に立って、ゲノム編集技術を使った製品は消費者のメリットがはっきり見えるものから始めることが大きな方針になりました。その結果、栄養価が高いトマト、毒を作らないジャガイモ、大きな魚など消費者に喜ばれる農水畜産物が作られたのです。
 これらはもうすぐ市場に出てきますが、消費者はこれを喜んで購入してくれるでしょうか。そうなれば農業者も生産を行うようになり、GMとは違う道を歩むことが期待されます。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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