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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐16- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐16- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐16- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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ノーベル賞級の大発見「ゲノム編集」

 まだ大きなニュースになっていませんが、昨年、日本でも「ゲノム編集食品」が許可になりました。米国ではすでに健康にいいと言われるオレイン酸を多量に含むゲノム編集大豆が商業栽培されています。日本では市販の製品はありませんが、健康食品の材料になっているGABAという物質を多量に含むトマトや、ソラニンという天然毒素を含まないばれいしょ、身体の大きさが2倍もあるタイなどを販売する計画が進んでいます。ゲノム編集とは何でしょうか。
 動物や植物の細胞の中の遺伝子が設計図であることはご存知だと思います。「ゲノム」というのは遺伝子のことです。その遺伝子を編集するとはどういうことでしょう。
 細胞は分裂することで増えていくのですが、そのときに遺伝子も複製されて新しい細胞の遺伝子になります。このときに時々複製の間違いが起こり、以前とは少し違った遺伝子ができてしまいます。これを突然変異と呼ぶのですが、設計図が変わると作られる細胞も変わります。こうして親とは少し違った性質を持つ子どもができます。例えば、親のコメよりおいしいコメができたら、その子どもを増やして、新しい品種にすることができます。これが育種です。
 しかし、自然にできる複製の間違いを待っていたら、なかなかいい作物はできません。そこで考えられたのが放射線を使う方法です。放射線を当てると、自然の状態と比べて千倍も多くの突然変異が起こるのです。こうして作られた新しい性質を持つ作物の中から、黒斑病にならないナシ「ゴールド二十世紀」や、アレルギーを起こしにくい「低アレルゲン米」などが作られました。
 放射線育種は有用な方法ですが、欠点は、遺伝子にどんな突然変異が起こり、どんな新しい性質が生まれるのかをあらかじめ決めることはできません。「運を天に任せる」しかないのです。
 遺伝子の研究が進むにつれて、どの遺伝子がどんな特徴を作るのかがわかってきました。たとえばジャガイモに毒素を作らせる遺伝子が分かったので、その遺伝子を消してしまえば、毒を作らないジャガイモが誕生するのです。しかし放射線育種では毒を作る遺伝子だけに突然変異を起こすことはできません。
 そして、ついに、多くの遺伝子の中から目的の遺伝子だけを切断する夢のような「はさみ」が作られました。その一つが「クリスパーキャスナイン」と呼ばれていますが、このはさみを使えば、毒を作る遺伝子だけを切断できるのです。これが「ゲノム編集」で、ノーベル賞級の大発見です。
 それでは、ゲノム編集と遺伝子組換え(GM)とはどこが違うのでしょう。GMは、元の作物が持たない遺伝子を外から入れることで、新しい性質を持たせる技術です。例えば、
害虫を駆除するタンパク質を作る細菌の遺伝子を取り出して、これをトウモロコシに入れることで、害虫抵抗性の作物ができます。もちろん、この毒素は人間には無害なので、トウモロコシは無害です。他方、ゲノム編集は外から遺伝子を入れるのではなく、自然の突然変異と同じことをしている点が違っています。
 ゲノム編集はとても有用な技術であり、これを使って新しい食品が次々に作られる可能性があるのですが、この新技術はGMのように激しい反対運動に巻き込まれることはないのでしょうか。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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