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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐18- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐18- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐18- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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ゲノム編集は自然変化と同じ

「ゲノム編集」と遺伝子組換え(GM)は遺伝子に変更を加える点では同じですが、法律上の取り扱いは全く違います。GMは健康と環境に対する影響を厳しく審査し、製品にはGMであることを表示する必要があります。他方、ゲノム編集食品は安全性の審査も表示の義務もないのです。なぜでしょうか。
 まず安全性ですが、GMは除草剤耐性や害虫抵抗性など作物が本来持っていない新しい性質を示すたんぱく質を含んでいます。それがアレルギーやがんなどの健康被害を起こさないかは厳重な審査が必要です。他方、ゲノム編集は作物が持っている遺伝子を切断するのですが、これは自然の状態でも同じことが起きるので、食品を調べても、それがゲノム編集食品なのか見極めることは不可能です。自然の食品と変わらないので、安全性の審査も不要なのです。
 GMに反対する人たちはゲノム編集にも反対しているのですが、その理由の一つが「オフターゲット」すなわち「的外れ問題」です。ゲノム編集は目的の遺伝子をピンポイントで切断するのですが、たまに的外れの遺伝子を切断することがあります。すると作物に目的とは違った変化が起こり、それを食べたら危険があるかもしれないという批判です。「それは怖い」と思うかもしれませんが、実は同じことが自然の状態でも起こっています。というより、自然に起こる遺伝子の切断は無目的で、どの遺伝子が切断されるのか予測ができません。そのような自然の変化が起こった作物を私たちは毎日食べているのですが、ある日、突然、ホウレンソウやナスが危険なものに変化したなどという経験はありません。それに国の審査がなくても、ゲノム編集食品を開発した企業は食品の安全性には十分配慮しています。
 次は表示の問題です。GMは表示が必要であり、食品を検査すればGMであることが分かります。だから「遺伝子組換え不使用」などの任意表示ができます。しかし、この表示の陰には大変な苦労があるのです。ほとんどの大豆とトウモロコシは米国中西部から輸入されるのですが、米国ではどちらもGMが主流です。そのなかで非GMを区別して集荷し、ミシシッピ川を下ってニューオルリーンズで輸送船に載せてパナマ運河を通って日本に来ます。この経路のすべてでGMと非GMを分けて取り扱う分別管理が行われていますが、非GMにわずかな量のGMが混入することが避けられません。そこで、5%までの「意図しない混入」は「なかったこと」にしています。しかし少量でもGMの混入があるものを「遺伝子組換えではない」と表示することは間違いなので、このような場合には「分別管理を行っている」などの別の表示に変更し、GMがゼロのものと区別することになりました。
 他方、ゲノム編集食品は検査をしても自然の食品と見分けがつかないし、輸入品の分別管理もありません。だから「ゲノム編集ではない」という表示の真偽を科学的に判断できず、表示を義務化することができないのです。
 そうはいっても、消費者からはゲノム編集食品なのか知りたいという声があり、そのような表示を望む事業者もあります。そこで消費者庁は食品に「ゲノム編集ではない」と表示することを認めましたが、生産履歴の整備と分別管理の実施という厳しい条件が付いているので、表示はむずかしそうです。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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