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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐19-(最終回) =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐19-(最終回) =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐19-(最終回) =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
 一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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「GMは危険」の根拠とは

 「遺伝子組換え(GM)は危険」という主張にはどんな根拠があるのでしょうか。
 その1つが「神学論」です。米国国民の4分の1を占めるキリスト教福音派は、聖書に書かれている通り神が世界を6日間で創造したと信じ、進化論を学校で教えることに反対し、天国と地獄の存在を信じ、トランプ大統領を強く支持しています。そんな人たちは、遺伝子は神の世界であり、人間がこれに手を付けることは許されないと考えて、GMに反対しているのです。日本ではこのような話は少ないのですが、人の遺伝子を変える ことには倫理的な問題を感じる人が多いでしょう。
 2番目は「感情論」です。「遺伝子が入っているものなど食べたくない」という話を聞きます。遺伝子は普通の食品に入っているのですが、GMにだけ入っているという誤解です。「安全と聞いたけれど、それでも嫌」という話も聞きます。安全と主張する科学者や行政を信頼できないためですが、理解していても感情的に嫌だという人もいます。
 3番目は「不可知論」で、「科学者は安全と言うけれど、孫やひ孫の世代にどんな被害が出るか、今の科学で将来のことなど分かるはずがない」という意見です。しかし科学はそれほど不完全ではありません。子どもや孫に伝わる遺伝子への影響を調べることで予測できるのです。
 GMに対する考え方を「プロセス(過程)主義」と「プロダクト(産物)主義」の対立と考えることもできます。作物を従来育種で改良するのか、GMを使うのかという生産過程を問題にする考え方がプロセス主義です。これに対して科学者は「プロダクト主義」、すなわち産物そのものの安全性や性質を問題にします。大事なことは食品の安全で、作り方はどちらでも気にしないという考え方です。
別の例をお話しすると、宇宙では宇宙飛行士の尿から水分だけ取り出して殺菌して飲料水にします。純粋の水なので安全性に何の問題もないというのがプロダクト主義です。「尿を飲むなんて嫌だ」というのがプロセス主義で、同意する人が多いと思います。
 しかし、私たちの排泄物は下水処理場から河川、海へと流され、蒸発して雲になり、雨になって河川に戻ります。その水を私たちは飲んでいるのですが、これを嫌という人はいません。宇宙船と同じことをしているのですが、なぜでしょう。宇宙船では尿を目の前で処理して飲むというイメージが嫌悪感につながりますが、水道水と汚水処理とはすぐにはつながりません。こうしてみると、私たちは理論ではなく感情で判断していることがよく分かります。
 GMに反対する人の中には、GMが健康にも環境にも有害と信じて善意で運動している人もいます。GM有害話や陰謀話をブログに転載して「イイネ」を稼ごうとする人もいます。欧米には大きな環境保護団体があり、反GM、反農薬、反捕鯨などの運動を展開し、そんな団体に多額の寄付をする慈善団体もあります。過激な運動と派手な宣伝で注目を浴びるほど多くの寄付が集まり、大きなビジネスになっています。その影響でGMや農薬への不安が大きくなっているのです。
 残念ながらこの問題の有効な解決策はありません。私たちがもう少し多くの科学の知識を持ち、情報の真偽を判断できるようになるといいですね。
 長らくのご愛読を感謝します。   了

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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