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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -4- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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代掻きも乗用化 動力耕耘機開発もスタート

 1910年度の農事試験場事務功程によると内外の各種農具の蒐集、調査、構造及び功程に関する研究が継続していることが記されている。発動機を搭載した動力耕耘機の調査は1920年に実施された米国製「ビーマン」トラクタの実用性に関する試験が最初である。
 「中等土の畑地で12㎝程度の耕起はできるが、田地では畦畔があるため広大な区画地を除き相当の熟練者でも鋤残りを生じ、稲株その他の障害物があるため操縦上の技巧を要す」としたことから、評価は高くなかったようだ。1922年にはその実用的価値を査定するため米国製「ユーチリティ」を加えて2機種を試験。結果は以下のとおり。「『ビーマン』の出力は公称馬力及び気筒実馬力に達せず、牽引力は耕牛のそれと大差なかった。『ユーチリティ』の出力は辛うじて気筒実馬力に達し、その耕起面積は中庸+、乾田では耕深平均19㎝で時間当たり4a程度」と。
 1923年には製造国不明の「スプレー・ホエール」、米国製「キンケードー」、スイス製「シマー」を加えて試験を行っているが、「いずれも故障多く狭い我が国の圃場では結果として牛馬耕と大差ない」との判断である。先の「農林省農事試験場概観」の記載はケーブル式耕耘機のみならずガーデントラクタも踏まえてのものであろう。
 動力耕耘機について当センター資料館によると、昭和に入って「シマー」をモデルに製作された「ロータリー式」が最初とされている。1936年に鍬の動作に近い方式で耕耘爪を上下して進む独特なクランク式、1938年には垂直な軸に螺旋を描くように付けた耕耘刀を回転させて進むスクリュ式が製作されたが、最終的にはロータリー式が残り、今日まで改良を加えつつ生産されている。
 動力耕耘機に次いで1935年代には米国製小型装軌式トラクタ(クレトラック)にプラウやハローなどを牽引して耕耘、砕土、代掻き、均平作業が行われている。農夫の間では親しみを込めてこのトラクタのことを「クレさん」と呼んでいたという。
 水田では特に田面を水平に保つ必要がある。耕起する時点から圃場内の凹凸を意識して修正していくが、代掻き用の水を張った段階ではさらに均平板などを介して圃場内の土の移動を行う。このような作業も代掻き機の乗用化(写真)や後ろに均平板を着けて牛馬に曳かせるようになって省力化が進んだ。代掻きは荒代、中代、植代など仕上がりの状態に合わせて何回か行い、田面の凹凸で苗が水没したり浮き上がったり、土面が露出して苗が枯れたりすることのないよう、また、均一に育つよう腐心するのは現代も同じである。
 次回は原動機を取り上げてみよう。
 本連載についてのご質問等は本紙まで。
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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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