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みどり戦略と農薬開発 植物防疫の立場から 日植防・早川理事長が提言

『みどりの食料システム戦略に貢献する農薬開発』をテーマに12月10日、東京都文京区の東京大学でシンポジウムが開催された。主催は『低価格農薬を実現するための革新的生産プロセス』研究開発プラットフォーム。農薬の各分野の第一人者5氏が自論を展開した。小林農薬対策室長のみどりの食料システム戦略策定についての説明に続き、日植防の早川理事長が『みどりの食料システム戦略実現に向けて、植物防疫の立場からの提言~特に化学農薬の使用量削減に関連して~』を講演した。


【背景としての「Farm to Fork戦略」】EUの「Farm to Fork戦略」と「みどり戦略」を対比(農薬)すると表1のようになる。農薬のKPI(重要業績評価指標)は二つで、特に②は目標年は違うが内容は同一。EUでは農薬のリスクを減らす進捗状況を把握するために『統合リスク指標』を作成、既に、この指標(表2)にて過去5年間の農薬使用によるリスクは20%減少したとしている。欧州委員会は「2030年までに化学農薬の全体的な使用とリスクを50%削減し、より有害な農薬の使用を50%削減する」としており、これがEU戦略のKPIだ。これまでのリスク20%削減実績を踏まえ、さらに意欲的に「50%削減」という目標を設定したのではないかと推測する。
(その後、EUの統合リスク指標による農薬削減状況の実態等を説明した。これについては次号以降掲載)

【緊急認可について】日本で登録のネオニコ剤7剤のうち、EUでは過去5剤が承認されていたが、本年9月1日現在、4剤の承認が取り消されている。ただし、実際にはそのうちのクロチアニジン、チアメトキサム、イミダクロプリドの3剤は、其々1カ国、3カ国、2カ国で製剤が認可され、使用されている。この3剤にチアクロプリドを加えた承認取消4剤は取消後本年8月31日までは、多数の国で多数の製剤について緊急認可されていた。最近緊急認可が減ったのは戦略の影響と考えられる。いずれにしろEUは対外的にはリスク評価の結果ネオニコ剤4剤は禁止したとしながら、実際はそのうちの3剤は現在もいくつかの加盟国で使用されている。

【EUにおける農薬リスク削減のための対策】①IPMの推進②化学農薬代替技術(クロップローテーション、機械除草等)の利用促進③低リスク農薬への転換、(微)生物農薬、フェロモン等の開発促進である。
 また「Farm to Fork戦略」の中に「グローバルスタンダード化」の項目があり、実際にWTOに働きかけている。これに対し米国農務省は「もし「Farm to Fork戦略」を全世界の国が適用した場合、全世界で農業生産量が11%減少し、食料価格が89%上昇、1億8500万人が食料不安にさらされる」と分析している。

 続いて日本の農薬リスクの現状。現在、農薬による様々なリスクは極めて低いレベルで管理されていると説明。そしてADⅠをリスク指標とした日本の農薬リスクの現状を分析、その後、みどり戦略に向けて以下の3つの提言を示した。

《化学農薬使用量(リスク換算)低減の目的の明確化」》2050年までに化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減させるという今回のKPIは、我が国の病害虫雑草防除に大きな影響を及ぼす可能性がある。何のためにこのような厳しいKPIを達成しなければならないのかを関係者に対して説明し、理解してもらう必要がある。みどり戦略では①環境負荷の軽減を図り②カーボンニュートラルや③生物多様性の保全・再生するため―の3つが目的と読み取れる。
 環境負荷と生物多様性については、問題が生じているとは思えないが、もし問題だということならば、まずそのエビデンスを示すことが必要。また、②カーボンニュートラルが目的ならば、農薬KPI達成とカーボンニュートラルとの関係を示すことが必要。KPIの達成自体が目的化してはならないと強調した。

《関連農業政策との整合性》農政全体との整合性が重要であると提言。植物防疫が関連すると思われる現在の主要な関連農業施策の目標を示し、みどり戦略の目標年である2050年には、さらに厳しい状況が想定されると指摘。具体的には①農業就業人口、農地が大幅に減少。その中で食料自給率を向上させるために、土地生産性(単収)と労働生産性を大幅に向上させなければならず、また、②農産物輸出の大幅増加のため、輸出先国の厳しい検疫条件に対応していかなければならない。すなわち「化学農薬を50%(リスク換算)低減させる中で、①②のような厳しい状況をクリアできる病害虫雑草防除を実現していかなければならない。そのためにこそ、みどり戦略でイノベーションということになるのだろうが、相当のブレークスルーが必要。

《適切な農薬・植物防疫施策の推進》適切な農薬・植物防疫施策の推進が必要だとも指摘した。先ず、みどり戦略で示された新技術等が、農薬取締法等の関係制度と矛盾しないこと。一例が「バイオスティミュラント」で、「革新的な植物保護技術のための資材」とされている。しかし、農薬効果を謳えば、農薬取締法に基づく農薬になる。EUでは、バイオスティミュラントは、肥料の規制制度の中で定義、規制されている。併せて、「農薬」の定義から除外されている。もう一つの例がRNA農薬。新たな生理活性物質で、適切なリスク評価・管理が必要。OECDの農薬ワーキンググループで、2020年からRNA農薬の環境リスク評価に関する検討が開始されており注視していく必要がある。
 次に、みどり戦略はイノベーション戦略であること、化学農薬のリスクが極めて低いレベルで管理されていることに鑑み、化学農薬代替技術(方法)の開発・普及を優先、その後に化学農薬リスク低減策を推進していくべきとした。
 3つ目。農薬リスク低減策の推進にあたってはリスクの現状を踏まえない過剰な規制にならないようにすべき。規制とは、手法等において国際調和が必要な部分もあるが、本来、自国内の農業や環境の状況とリスクの現状を適切に把握したうえで、実施すべきもの。さらにそのコストも重要な考慮事項と強調した。
 最後に、全体の施策の策定・推進にあたって、国・都道府県、農薬メーカー、生産者等関係者のコミュニケーション・連携を密にし、現場での混乱が生じないようにすべき、そのためには積極的なリスクコミュニケーションを進め、今後30年間政策として継続されていくこの戦略が、各ステークホルダーを含め広く国民に受け入れられていくものであって欲しいと付け加えた。

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