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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐13- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐13- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐13- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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世界の農場からGMが消える?


 今日は、世界の農場から遺伝子組換え作物(GM)の大部分が消えるかも知れないという話です。
 バイテク情報普及会によれば2018年には米国、ブラジル、アルゼンチンなど26か国でGMを栽培し、栽培面積は2億ha、日本の耕地面積の45倍です。内訳を見ると、ダイズが栽培面積の78%、ワタは76%、トウモロコシは30%、ナタネは29%を占めています。
 GMの特性は、除草剤耐性が46%、害虫抵抗性が12%、除草剤耐性と害虫抵抗性を兼ね備える「スタック」が42%です。除草剤耐性のほとんどがラウンドアップ耐性なので、スタックを合わせてGMの88%がラウンドアップに依存していることになります。ということは、世界のダイズとワタの67%、トウモロコシとナタネの26%がラウンドアップがなければ生産できないのです。
 そのラウンドアップが2つの理由で消滅の可能性があります。第一は、安全性に対する誤解です。世界の規制機関がその安全性を確認しているのですが、国際がん研究機関(IARC)だけが「おそらく発がん性がある」と評価したため誤解が広まり、米国で裁判になった話はしました。これからも反対運動は続くことでしょう。
 もう一つの理由は、ラウンドアップ耐性雑草の増加です。調査によれば米国ではGMダイズの畑の約半分に耐性雑草が生え、その量も種類も増え続けています。このままではほとんどのGMの栽培が難しくなります。そこで旧モンサント社は2012年にダイズとワタのGMをジカンバ耐性GMに置き換える戦略を立てて、15年から販売を始めました。
 ところがジカンバは揮発性のため、近隣の畑の作物を枯らしてしまう被害が出て訴訟になり、今年6月に一部は和解したことはお話ししました。その後、旧モンサント社など3社は揮発性が弱い新型ジカンバを開発したのですが、問題は解決しませんでした。
 和解と同じ6月、米控訴裁判所が環境団体の訴えを取り上げて、新型ジカンバの農薬登録を取り消したのです。すでにジカンバ耐性GMの作付けが終わっていたため、農家の混乱を防ぐため、環境保護庁(EPA)は7月末までの使用を認めたのですが、このままでは来年以後のジカンバ耐性GMの作付けは難しくなります。バイエル社など3社は判決を不服として控訴しています。
 ラウンドアップは有効性も安全性もきわめて高く、世界中で広く使用され、最も成功した除草剤といわれています。もちろん、その陰で次の世代の除草剤を開発する努力は続けられたのですが、この30年以上、新規除草剤の開発は成功せず、ラウンドアップの後継者は出ていません。
 さまざまな除草剤をうまく使えば耐性雑草の出現を押さえられたのですが、ラウンドアップだけを使い続けたため、耐性雑草を増やすことになったのです。仕方なく、古い除草剤ジカンバを後継者にしようとしたのですが、難しい状況です。
 今後事態が悪化してラウンドアップが使えなくなると、世界のダイズとワタの3分の2、トウモロコシとナタネの4分の1の生産が止まります。非GMに切り替えることで生産の一部は維持できるでしょうが、それは大きな農業労働を伴う昔の農業への後戻りであり、その影響は世界の食料安定供給に及ぶことでしょう。
   

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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