農林業機械・農薬・資材についての動向を紹介する

受付時間 平日9:30~17:00

TEL 03-3831-5281

毎週 火曜日発行
 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐14- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐14- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐14- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
====================================================================
IARCだけが発癌性ありの謎

 2015年に国際がん研究機関(IARC)がラウンドアップの有効成分であるグリホサートには「おそらく発がん性がある」と評価しました。世界保健機関(WHO)も世界の規制機関も安全性を認めているのに、なぜIARCだけがこのような評価をしたのでしょうか。ロイター通信のケイト・ケランド記者が2017年にその謎を解く次のような記事を書きました。
 農薬の安全性試験のほとんどが実験動物を使ったものですが、人での調査も行われています。米国国立がん研究所などが行った農業者健康調査(AHS)です。これは1993年から97年にノースカロライナ州とアイオワ州で農薬使用許可を持つ農民とその家族5万人余りを集めて、5年後に農薬使用が健康に影響するのかを調べたものです。
 その結果は2013年から15年にかけて三報の論文で発表され、殺虫剤とがんは無関係であることが明らかにされました。除草剤とがんが無関係であることも2013年に分かったのですが、なぜかその事実が論文になったのはIARCの評価が終わった後の2017年でした。この研究の結果、グリホサートに発がん性がないことが、実験動物ではなく人で証明されたのです。
 この研究に参加していたのが、国立がん研究所の疫学者、アーロン・ブレア氏です。そして彼こそが、IARCでグリホサートの評価を行った委員会の座長だったのです。自身の調査でグリホサートに発がん性がないことを知りながら、なぜ「おそらく発がん性がある」と評価したのか。この矛盾をケランド記者が追求しました。
 ブレア氏は、IARCの評価が出た直後に起こされたカリフォルニア州での裁判に出廷して、グリホサートとがんとは無関係という調査結果を知っていたこと、もしこの結果をIARCに知らせていたら、その判断は変わっていただろうと証言しています。知らせなかった理由は、まだ論文になっていなかったからと答えています。
 それでは、なぜ論文の発表が4年も遅れたのでしょうか。裁判で旧モンサント社は、ブレア氏が論文発表を故意に遅らせた可能性を主張し、ブレア氏はこれを否定しています。
 続いてケランド記者は、IARC報告書の下書きを入手して、発表された報告書と比較しています。すると、驚いたことに下書きではグリホサートとがんの関係には「多少の裏付けしかない」という結論だったのです。
 ところが発表された報告書では、両者に関係がないことを示す10か所の部分が削除され、あるいは関係があるという記載に変更され、結論がグリホサートとがんの関係には「十分な裏付けがある」と変更されていたのです。
 ケランド記者の追及に対してIARCは、削除された論文はモンサント社の研究者によるものだから信用できないこと、削除や変更は報告書を作成したすべての科学者の総意だと述べています。
 それでは報告書で採用した論文は信用できるのでしょうか。論文の内容を検証したタロン氏の2016年の論文によれば、グリホサートとがんの関係を明確に証明する事実はなかったのです。
 IARCは自身への批判はすべてモンサント社の陰謀と主張していますが、このタロン氏はモンサント社と関係がありません。これだけでもIARCの怪しさが分かるのですが、さらに大きな疑惑が明らかになりました。

====================================================================

【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

関連記事

技術光る果樹経営者たち こまめな温度管理で 生育差小さく作業効率も向上

技術光る果樹経営者たち こまめな温度管理で 生育差小さく作業効率も向上

「見える」と「見えない」で大岡裁き サタケニュースレター

「見える」と「見えない」で大岡裁き サタケニュースレター

日本甜菜製糖 ゲインウォーター 土に撒けば保水力等向上

日本甜菜製糖 ゲインウォーター 土に撒けば保水力等向上

省力的な雑草管理へ カネショウファームおおぎす

省力的な雑草管理へ カネショウファームおおぎす