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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐12- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐12- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐12- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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化学物質への訴訟続出が招くもの


 バイエル社がモンサント社を約7兆円で買収し、同社が抱えていたラウンドアップに関する12万件以上の訴訟を約1兆円の和解金で解決したことはお話しました。結果的には買収額が約8兆円に膨れ上がったということになります。
 実は旧モンサント社はさらに2件の深刻な訴訟を抱えていました。それがPCB問題とジカンバ問題です。この2件も今回和解をしたのですが、今日はその話です。
 PCBはポリ塩化ビフェニルの略称で、油状の化学物質です。安価で熱や薬品に安定で電気絶縁性が高いため、冷蔵庫、洗濯機、蛍光灯など、身の回りの多くの電気製品に広く使われ、私たちの便利な生活を支えてきました。ところがその後、PCBは体内に蓄積しやすく、強い毒性があることが分かりました。日本では1968年に製造過程で食用油にPCBが誤って混入し、これを摂取した人に深刻な被害が出た「カネミ油症事件」が起こりました。生活を豊かにするはずの化学物質が実は危険であったことを知らなかったのです。
 旧モンサント社は1935年からPCBを製造販売していましたが、その毒性が明らかになったため、1977年に製造を停止しました。
 その後、現在に至るまで、PCBは厳しく規制されているのですが、電気器具などが適切に処理せずに廃棄され、流れ出したPCBによる環境汚染が起こりました。米国オレゴン州などは、旧モンサント社がPCBの毒性を知りながら販売を続けたとして、PCBの除染や魚類などへの影響調査の費用の支払いを求めて、2018年に訴訟を起こしました。
 今回バイエル社は、米環境保護局(EPA)がPCB汚染を認めた事例について、総額900億円の賠償金を支払うことで和解しました。環境汚染自体は旧モンサント社の責任ではないのですが、これも悪評を早期に解決したいバイエル社の方針でしょう。
 次は除草剤ジカンバ問題です。どんな除草剤も長期間使用すると耐性の雑草が増えるという問題があり、ラウンドアップ耐性の雑草が増え続けています。このままではラウンドアップだけでなく、ラウンドアップ耐性遺伝子組換え作物(GM)も使えなります。
 そこで旧モンサント社はラウンドアップ耐性GMの後継者としてジカンバ耐性GMを開発して2015年に売り出しました。ところがジカンバは揮発性で、風で流れ出すという欠点があり、15年夏には近隣の畑の作物を枯らす被害が出はじめました。そして翌16年に被害は一気に5倍に増えたのです。旧モンサント社は17年に揮発性が低いジカンバを市販したのですが、それまでに被害を受けた農家から損害賠償の訴訟が起こりました。
 ミズーリ州で今年の2月に行われた最初の陪審員裁判ではバイエル社が300億円という高額の賠償を命じられ、同社はこれを不服として控訴しました。
 今回、バイエル社は、まだ判決が出ていない集団訴訟の原告と総額400億円で和解しました。ただし控訴中の裁判は今後も継続します。
 こうして旧モンサント社が抱えていた3件の訴訟はほぼ解決しました。しかし、これですべての問題が解決したわけではありません。世界中で栽培されているGMの大部分が栽培されなくなり、世界の食料安定供給に大きな問題が起こりかねない出来事が待っているのです。それは次回。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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