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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐11‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐11‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐11‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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科学に基づいた判決を期待したい

 ラウンドアップを開発した米国のモンサント社が、2018年に、ドイツの製薬会社バイエルに約7兆円で買収されました。その直後にカリフォルニア州での陪審員裁判で、ラウンドアップに発がん性があることを知りながら、その警告をしなかったためがん患者が出たとして、旧モンサント社に約320億円の損害賠償を命じる判決が出され、続く2件の裁判でも同じ理由で高額賠償の判決が出されました。3件ともバイエル社が控訴して、裁判は続いています。
 実はこれはもっと大きな問題の始まりでした。12万人以上のがん患者が同様の訴訟を起こしていたのです。ラウンドアップに発がん性があるという科学的な根拠はないのですが、陪審員は科学ではなく心象で評決を出すので、悪評が高い旧モンサント社ではなく、悲惨ながん患者に同情が集まりました。今後も同様の判決が続くことでしょう。
 最初は「科学的に正論を主張する」として、裁判を受けて立ったのですが、裁判には多くの証人や弁護士を準備して膨大な時間と費用をかけることが必要です。それでも裁判に負け続けるとなると、ラウンドアップに対する風評がさらに大きくなり、ヨーロッパなどで規制がさらに厳しくなることが予想されます。これでは裁判の継続はマイナスばかりで何の利益もありません。
 そこでバイエル社は訴訟を起こした全員に総額約1兆円を支払うことで、和解をしたのです。和解の条件は原告が、バイエル社と旧モンサント社には何の不正行為もないことを認めて責任の追及を止めること、すなわち訴訟を取り下げることです。これで多数のラウンドアップ訴訟の大部分が終了することになります。
 しかし、今後、新たに訴訟を起こすがん患者が出てくる可能性があります。これについては、新たに科学委員会を設置して、ラウンドアップががんの原因なのかを科学的に審査することになっています。陪審員裁判では敗訴が続きましたが、科学の議論になれば負けることはないでしょう。
 またすでに判決が出た3件の訴訟についてはバイエル社が上告したので、控訴裁判所で裁判が続きます。その行方を占う重大な判決が最近出されました。
 カリフォルニア州では、ラウンドアップ関連製品に「発がん性がある」という警告表示を義務付けていました。これに対して旧モンサント社が訴訟を起こし、控訴裁判所が画期的な判決を出したのです。この表示も、これまでの3件の判決も、国際がん研究機関(IARC)がラウンドアップに含まれるグリホサートには「おそらく発がん性がある」と判断したことを根拠にしています。これに対して、米環境保護庁(EPA)も世界保健機関(WHO)も世界各国の規制当局も「発がん性を示す証拠はない」という結論を出しています。控訴裁判所のシャブ判事はこのような事実を総合的に判断して、カルフォルニア州の警告表示には科学的根拠がないとしてこれを禁止したのです。
心象で判断する陪審員と、法律と論理で判断する判事の違いが出たもので、3件の控訴審でも科学に基づいた判決が出されることが期待されます。
 実は旧モンサント社にはラウンドアップ問題以外に、ジカンバ問題とPCB問題に関する訴訟があり、今回それらも一緒に和解したのですが、その話は次回に。
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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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