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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐10‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐10‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐10‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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常識を覆す〝金で動く弁護士〟

 国際がん研究機関(IARC)が「ラウンドアップの主成分であるグリホサートにはおそらく発がん性がある」と判定したため、EU各国では規制の強化が始まりました。
 これをビジネスチャンスととらえたのが、訴訟で収益を上げている米国の弁護士です。テレビコマーシャルを使って、ラウンドアップを使ったことがあるがん患者にモンサント社に対する訴訟を持ちかけたのです。
 たちまち多数の応募者が現れました。最初に裁判を起こしたのは、がん患者であるジョンソン氏でした。もちろん裁判官も陪審員も、がんの原因がラウンドアップなのか、判断することはできません。そこで裁判ではジョンソン氏側の証人として呼ばれた科学者と、被告であるモンサント社側の証人である科学者の説明を聞いて、どちらが信用できるのかを判断したのです。
 ここで大活躍をしたのがジョンソン氏の弁護士であるリッツェンバーグ氏(37歳)でした。彼は陪審員にがんになったジョンソン氏の姿を見せて、IARCの判定やモンサント社の内部メールを持ち出して、ラウンドアップは安全という米国環境保護庁(EPA)の判断はモンサント社の意向によるものと主張し、同社はラウンドアップの発がん性を知りながら隠していたと主張しました。
 もちろんモンサント社はこれに反論したのですが、陪審員は弁護士を信じて、ジョンソン氏のがんの原因がラウンドアップであり、またモンサント社はラウンドアップががんを引き起こすことを知りながら、その危険性を使用者に伝えていなかったと判断して、2018年に懲罰的賠償を含む3億ドル(330億円)の判決を下しました。手当てが10%とすると、弁護士には30億円が支払われることになります。
 その後、裁判所はこれを約4分の1の7800万ドル(約86億円)に減額しましたが、被告側はこれを不服として控訴したため、判決はまだ確定していません。
 2018年にモンサント社はドイツのバイエル社に買収されましたが、その後の2件の同様の裁判でも敗訴しています。
 高額の判決が続いたことで訴訟を起こす人は増え続け、現在は10万5000人と発表されています。バイエル社はモンサント社の高い技術力を評価して約7兆円を出して買収したのですが、この金額を取り戻すためには山積する訴訟を早期に解決してモンサント社の悪いイメージを払しょくすることが必要です。
 そこでバイエル社は10万5000人の原告に総額約1兆円という想像を超える和解金の支払いでこの問題を解決する話し合いを始めました。その後起こった新型コロナ問題で協議はしばらく止まったのですが、6月24日にバイエル社は和解が成立したと発表しました。
 和解の内容については次回解説する予定ですが、この間に、もう一つ驚くような出来事がありました。ジョンソン裁判で勝訴したリッツェンバーグ弁護士が、モンサント社の関連企業に2億ドルの報酬でコンサルティング契約を持ちかけ、受け入れなければモンサント社と同じ容疑で裁判を起こすと脅迫したのです。そして昨年12月、彼はFBIに逮捕されました。弁護士は正義のため働いているはずですが、ラウンドアップ裁判をめぐる出来事を見ると、米国では金のために働く弁護士がいることがよく分かりました。


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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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