農林業機械・農薬・資材についての動向を紹介する

受付時間 平日9:30~17:00

TEL 03-3831-5281

毎週 火曜日発行
 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐9‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐9‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐9‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
====================================================================
反GM運動と作られた科学的根拠

 除草剤ラウンドアップに対する反対運動の陰に、遺伝子組換え(GM)反対運動があることはお話ししましたが、そのために使われたのが宣伝映画です。
 映画の内容は、モンサント社はベトナム戦争で使われた枯葉剤を作った最悪の企業だ。GMはアレルギーやがん、子どもの学習障害や多動性障害やぜん息を起こす。モンサント社は政治と癒着してラウンドアップの発がん性を隠蔽した。発がん性を示すデータを発表しようとしたモンサント社の研究者は弾圧され、解雇された。モンサント社は作物の種子を独占し、世界の農業を支配しようとしている、などの陰謀論です。そして、多くの人がこれを信じています。
 それだけではありません。反GM団体はラウンドアップが危険という科学的根拠を作り出しました。反GM派であるフランスのセラリーニ教授が2012年に発表した論文です。その内容は、ラットにGMトウモロコシや微量のラウンドアップを食べさせるとがんを増やすというものです。セラリーニ教授は論文の内容を漏らさないという条件で記者に論文を見せたのですが、そこには巨大な乳がんができたラットの写真が載っていました。その実験が正しいのか、他の研究者に確認することが禁じられていたので、発表当日、多くのメディアが論文の内容をそのまま報道し、不安が広がりました。
 それまでの多くの研究で、GMトウモロコシにもラウンドアップにも発がん性がないことが確認され、各国の食品安全機関も発がん性を否定していました。だからセラリーニ教授は記者が事前に他の研究者の意見を聞けないようにしたのです。それでは、なぜこの論文だけがんができたのでしょうか。そこにはトリックがありました。
 この実験に使われたラットは自然の状態でも多くのがんができる種類で、自然にできたがんをGMやラウンドアップのせいにしたのです。
 この論文はすぐに多くの科学者による否定され、論文は取り消し処分になりました。しかし、別の雑誌が再掲載して、反GM団体はいまだにこの論文を根拠にしてラウンドアップに発がん性があると主張しています。
 2015年にはさらに深刻な問題が起こりました。国際がん研究機関(IARC)が、ラウンドアップの主成分であるグリホサートを、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」というグループ2Aに分類したのです。同じグループには牛肉、豚肉などの肉類、熱い飲み物、紫外線、美容・理容業、シフト勤務など74項目が入っています。
 IARCは「がんの可能性があるという論文があるから注意しましょう」と言っているのですが、これを見て「ラウンドアップには発がん性があるから禁止すべき」と主張する人が出てきました。
 でも、もしラウンドアップを禁止するなら、牛肉も熱いコーヒーも美容院も禁止しなくてはなりません。
 IARCはグリホサートが非ホジキンリンパ腫というがんを引き起こす可能性があると言っているのですが、それはこれまでの多くの研究結果とは違います。そして世界の多くの研究機関が「発がんリスクは考えにくい」と発表していますが、一度出された評価は変わりません。
 そしてIARCの発表は米国で大変な事態を引き起こしました。それは次回。

====================================================================

【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

関連記事

日本甜菜製糖 ゲインウォーター 土に撒けば保水力等向上

日本甜菜製糖 ゲインウォーター 土に撒けば保水力等向上

省力的な雑草管理へ カネショウファームおおぎす

省力的な雑草管理へ カネショウファームおおぎす

シンジェンタJ 果樹・野菜殺虫剤 ミネクトエクストラSC上市

シンジェンタJ 果樹・野菜殺虫剤 ミネクトエクストラSC上市

「環境ストレス研究会」 ファイトクローム現地実証に向け14社連携

「環境ストレス研究会」 ファイトクローム現地実証に向け14社連携