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【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐8‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐8‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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なぜラウンドアップが危険視

 除草剤ラウンドアップ関連製品が危険という話が出回り、一部の団体が小売業に対して販売しないように圧力をかけています。
 日本と世界の食品安全機関が安全性に問題がないと判断し、だから世界各国で広く使われているのですが、なぜラウンドアップが危険な除草剤にされているのでしょうか。そこには深刻で、興味深い事情があります。


 ラウンドアップの有効成分はグリホサートという化学物質で、米国モンサント社が1974年に発売しました。安全性が高く、散布後は短時間で分解・消失するので環境汚染の可能性が小さく、世界各国で農業だけでなく家庭用としても広く使用されています。
 しかし、ある時期からその運命は変わり、一部の人から危険といわれるようになりました。そのきっかけは1996年に始まった遺伝子組換え作物(GM)の商業栽培でした。


 最初に栽培されたGMは米国モンサント社が開発した「ラウンドアップレディー」という大豆やトウモロコシです。このGMはラウンドアップを散布しても枯れないので、雑草だけを簡単に駆除できます。そんな夢のような特徴が評価されて、ラウンドアップレディーは世界中に広がりました。同時にラウンドアップも売り上げを伸ばしました。
 ところがGMには当初から反対運動がありました。遺伝子は神の領域であり、人間がこれに手を付けることは許されない。遺伝子が入っているものなんか食べたくない。そんなものを食べたらどんな恐ろしいことが起こるかわからない、などの理由です。反対運動が広がったきっかけは企業の不注意でした。


 1998年にフランスのアベンティス社が害虫抵抗性の遺伝子を組み込んだトウモロコシ「スターリンク」を開発しました。GMは食品としての安全性と環境への影響について国の審査を受けるのですが、スターリンクはアレルギーに関するデータが不足していたため食用には許可にならず、米国内での飼料用として栽培が始まりました。
 ところが2000年に米国で、メキシコ料理のタコスに使うトウモロコシにスターリンクが混入していることが分かり、消費者から、スターリンクを食べたためアレルギーを起こしたという訴訟が起こりました。アベンティス社は訴訟の原告と高額の賠償金で和解し、スターリンクは栽培停止と回収に追い込まれました。その後、米国政府機関がスターリンクとアレルギーには因果関係がないことを明らかにしたのですが、この事件がきっかけになってGMはアレルギーを起こすという間違った情報が広がり、世界中でGM反対運動が起こりました。


 スターリンクが消えた後、反GM団体がターゲットにしたのがラウンドアップレディーとその開発企業のモンサント社で、その手段として目をつけたのがラウンドアップでした。
 そもそもモンサント社は、ベトナム戦争で使われたダイオキシン類が含まれる枯葉剤を作った評判が悪い企業であること、その企業が作った農薬ラウンドアップに発がん性があるといえば、多くの人が信じると考えられること、ラウンドアップを禁止に追い込めば、当然のことながらラウンドアップレディーも消えること、そんな戦略が動き始めたのです。この作戦は成功を収めるのですが、続きは次回。
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唐木先生への質問などございましたら、本紙迄。


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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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