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【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐7‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐7‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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複合汚染も蓄積も心配はない

 農薬の安全性については、「複合汚染」と「蓄積」についての質問をよく受けます。
 『複合汚染』は1974年から朝日新聞に連載された有吉佐和子氏の小説で、農薬や添加物などの化学物質を複数摂取すると、個々の化学物質の毒性から予測できない恐ろしい毒性が現れる可能性を警告したものです。
 しかし、残留農薬も食品添加物も、健康に影響がない1日摂取許容量(ADI)以下しか食品に混入していません。化学物質が細胞に作用するためにはたんぱく質に結合することが必要ですが、量が少ないと結合できません。結合に必要な最低の量を「しきい値」とよび、これがADIと考えられています。ADI以下の微量の化学物質が何種類あっても、どれも細胞に作用できないのですから、相互作用が起きるはずがないのです。
 他方、私たちはしきい値をはるかに超える多量の化学物質を飲むことがあります。それが薬と健康食品です。健康食品を化学物質と思っていない人が多いのですが、その有効成分は薬と同じ化学物質です。だから、指定された量を超えると副作用が起こることがあります。さらに、何種類もの薬や健康食品を飲むと、それらが互いの作用を強めあったり、副作用が強く出たり、逆に効果がなくなることもあります。それを防ぐために、飲んだ薬は「お薬手帳」に記入して、相互作用が起こらないことを薬剤師に確認してもらうことが必要なのです。
 このように「複合汚染」という考え方は、多量の化学物質を飲むことになる薬や健康食品の場合にはあり得ます。しかし、しきい値以下の微量しか摂取しない残留農薬や添加物には当てはまりません。化学物質の作用は量により決まるという原則がここにも生きています。しかし、残留農薬や添加物に「複合汚染」という考え方が当てはまるという誤解が、未だに解消されていません。
 次は、「化学物質は蓄積する」という心配です。化学物質の講演をしたとき、若い女性から質問を受けました。彼女は子供を作る予定なので、風邪をひいても頭痛があっても薬は一切飲まないと言いました。その理由を聞いたところ、女性雑誌やインターネットを見ると、化学物質が体内に蓄積して、それが子供に悪い影響を与えると書いてあったからということでした。
 そんな情報が出回っている理由は、1960年前後に、水俣病の原因である有機水銀や、イタイイタイ病の原因であるカドミウムが体内に蓄積して重い症状を引き起こすことが知られるようになったためだと思われます。
しかし、蓄積する化学物質は少数で、大部分は蓄積しません。それは肝臓にある化学物質代謝酵素の働きで、体外に排出されるからです。だから薬の効果を持続させるには1日3回飲む必要があるのです。もし蓄積する薬を作れば、1回飲めば二度と飲まなくてもいいのですが、間違ってもう一度飲むと過剰になって副作用が出てしまうので、そんな薬はありません。
 化学物質が毛髪などで見つかることがありますが、それは健康に影響する大量の蓄積ではなく、健康と無関係の微量の残留です。
 添加物と農薬は、発がん性があるものだけでなく、体内に蓄積するものも許可になりません。ということで、「複合汚染」も「蓄積」も心配はないのです。
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唐木先生への質問などございましたら、本紙迄。03―3831―5281。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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