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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐6‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐6‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐6‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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〝環境にやさしい農業〟とは何だろう

 今回は「環境にやさしい農業」の話をしましょう。
 狩猟採集時代の祖先は自然が与えてくれる食物で生きていました。人間は自然の一部だったのです。この関係を大きく変えたのが、一万年ほど前に始めた農業です。集団で定住し、樹木を伐採して建材や燃料に使い、森林を焼き払って耕地を作りました。自然と共存していた人間が自然破壊を始めたのです。
 農業により食料供給が増加すると、人口が増加しました。これを養うために耕地の開発と自然破壊がさらに進みました。それは現在も続き、アマゾンやスマトラ島の森林が破壊されています。二酸化炭素を吸収する森林の破壊は温暖化を引き起こします。また二酸化炭素より強い温暖化効果を持つメタンガスが水田から大量に発生し、牛の胃の微生物が作ったメタンガスがゲップとともに出てきます。
 1940~60年代に、耕地と灌漑の整備、優良品種の開発、化学肥料と農薬の開発により農業生産を飛躍的に向上させたのが「緑の革命」で、これを推進した米国のボーローグ博士はノーベル平和賞を受賞しました。
 「緑の革命」は人類を飢餓から救いましたが、同時に地球環境にさらに負担をかけました。その一つが、20世紀最大の環境破壊といわれるアラル海の縮小です。世界第四位の湖が、1960年代から約半世紀でほとんど干上がりました。湖に流れ込む川の水が綿花や米の栽培のために使われたためです。ほかにも農業や工業用の大量消費の結果、水不足に直面している国が広がっています。
 農薬については、殺虫剤の開発により虫害が防止されたのですが、その大量散布により田園からトンボもホタルもカエルも消えました。これを告発したカーソン女史の『沈黙の春』(1962年)を読んだケネディー大統領が農薬の大量散布を禁止した話は有名です。
 近頃問題になっているのはネオニコチノイド系殺虫剤(ネオニコ)で、1990年代から日本の企業を中心に開発され、世界中で広く使われています。ところが2000年代から欧米で、働き蜂が巣から消えてしまう「蜂群崩壊症候群」(CCD)が発生しました。その原因としてネオニコが疑われましたが、確実な答えは出ていません。
 ヨーロッパでは予防の措置としてネオニコの使用を制限する国が出ています。他方、農水省によれば日本ではCCDは発生していません。ただ、水稲のカメムシ防除の時期にミツバチが死亡する例が少数報告されています。その被害を防ぐために農水省は、殺虫剤の使用者が十分に注意し、養蜂家と情報を共有することを求めています。
 化学肥料の使い過ぎは土壌の劣化や水の汚染など環境問題を引き起こします。硝酸態窒素の過剰使用は緑色野菜に硝酸を蓄積させて食品安全の問題を引き起こします
 温暖化、水不足、環境汚染など、多くの問題を解決しなければ農業の将来はありません。これを解決しようとするのが国連の持続可能な開発目標(SDGs)、すなわち経済も社会も環境もすべて持続させるための目標です。そして、その農業分野での取り組みが農業生産工程管理(GAP)で、食品安全、環境保全、労働安全のすべての面において持続可能性を目指すものです。
 このように「環境にやさしい」とは「持続性がある」という意味でもあるのです。

唐木先生への質問などございましたら、本紙迄。03―3831―5281。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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