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【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐5‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐5‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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国の規制の基本は学会が認めた科学


 週刊新潮が『「食」と「病」―実は「農薬大国」ニッポン』と題する記事を連載しました。これは科学や国による規制の方針を無視したものであり、消費者に農薬に対する恐怖感を植え付けるだけでなく、農産物の販売にも影響を与えかねません。
 記事に対して、農薬工業会と除草剤ラウンドアップの発売元である日産化学が、科学的な根拠に基づいて反論しました。そして、最近、週刊新潮がこれに反論する記事を出しました(6月18日号)。その内容は科学の立場から見て容認できないものでした。
 最大の問題は、週刊新潮の次のような考え方です。『農薬工業会は国のガイドラインを守っているから安全だというが、私たちはそこに問題があると指摘している。(中略)「農薬は少量なら安全だ」としているが、それを定めた安全性の基準に対する信頼性からして問題がある』。
 そのような主張の根拠は、記事に登場する何人かの研究者の主張が国の規制に取り入れられていないからというものです。これは科学と国の規制に関する重要な問題なので、解説します。


 そもそも、科学とは多くの人が持つ疑問に答えを出すことです。例えば、微量の残留農薬が発達神経障害や世代を超えた毒性を引き起こすのではないかと考えた人が、それを証明する実験を行います。しかし、遺伝子や実験動物を使った多くの実験では、それを証明する結果は得られません。さらに違う実験方法を試した結果、やっとそれらしい結果が出ました。その結果を論文にして、「査読」を受けて、発表します。しかし、それで答えが出たわけではありません。問題はそこから始まるのです。それが「検証」です。
 多くの実験でそのような毒性が見られていないのに、なぜこの実験だけで毒性が見られたのか。それは特別の方法を使ったからであって、一般化できないのではないか。この結果が正しいとして、同じことがヒトでも起こる可能性があるのか。そもそもこの論文の査読は十分に行われたのか。このような疑問点を調べるために、別の研究者が追加の試験を実施します。多くの検証により正しさが証明されれば、研究者の集まりである学会がこれを認めます。
 現在のところ、微量の残留農薬が発達神経障害や世代を超えた毒性を示すという実験結果は検証が不十分であり、多くの科学者が認めてはいません。
 このように、科学の世界は、論文が一つ二つあれば真実が分かるというような簡単な原理では動いていないのです。検証により不確実性が小さくなった科学が集まって、「科学の体系」が作られているのです。
 食品安全に関する国の規制の基本は「学会が認めた科学」であり、「検証不十分の科学」ではないのです。もちろん、現在は検証不十分でも、将来十分な検証を受けて学会が認めるような科学になるものもあるでしょう。そのとき初めて国の規制の根拠として取り上げられるでしょう。


 2018年の国連総会は、6月7日を世界の全ての人が食品安全を考え、学び、実行する「世界食品安全デー」としました。日本も世界のどの国も、国民の健康を守るため、食の安全の確保を重視しています。だから、日本では食品による健康被害は食中毒菌などに限られ、残留農薬による健康被害はないのです。この事実を重視していただきたいと思います。


唐木先生への質問などございましたら、本紙迄。03―3831―5281。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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