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【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐4‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐4‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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作物ごとの基準値が安全の境目ではない

 農薬の残留基準は作物ごとに決められていて、同じ農薬を使う野菜などをすべて食べても、1日摂取許容量(ADI)の8割を超えないように基準値が決められていることをお話ししました。
 安全のために一番大事な数字はADIであって、これを超えない限り安全なのです。そして作物ごとの基準値はADIの内わけであり、安全と危険の境目ではないのです。
 にもかかわらず、週刊誌では作物ごとの基準値を取り上げて、その値が海外より高いから「安全を無視している」などと書いています。この間違いについて解説しましょう。
 たとえば、ネオニコチノイド系殺虫剤スタークルの有効成分はジノテフランという化学物質です。これをお茶に使用した時の残留基準は、日本では25ppm、台湾では10ppm、韓国では7ppm、EUでは0.01ppmです。だから日本はEUより2500倍も甘いと週刊誌は批判しています。
 ジノテフランは日本で開発された殺虫剤で、日本、韓国、台湾などでは残留基準を設定して使用しています。他方、EUではこれを使用せず、農薬として登録もしていません。だから残留はゼロになるはずですが、極めて微量の化学物質でも検出できるようになったので、基準をゼロにすると違反が出てしまいます。そこで、健康に被害がない0.01ppmを基準値にしているのです。これを「一律基準」と呼び、登録されていない農薬は全て一律基準を使います。
 このように、残留基準は農薬ごと、作物ごとに細かく決められているのですが、登録されていない農薬は、すべての作物について、同じ一律基準を適用しています。両者は全く意味が違う値であり、これを比較することはできないのです。
 ジノテフランの作物ごとの基準値を見ると、お茶、ハーブ、その他の多くの野菜で25ppm、米、カボチャ、ミカンなどで2ppm、ナシ、ビワ、マンゴーなどで1ppm、大豆、タマネギなどで0.1ppmなど大きな差があります。これを見て、「お茶の基準は甘い」ということにはなりません。すべてADI以下であり、安全な数字です。数字の違いは、それぞれの作物を食べる量や、栽培時に残留する量などを参考にして決めたからです。
 たとえ話をすると、ADIはコップで、作物ごとの基準は大きさが違うスプーンです。すべてのスプーンの中の水をコップに入れても、コップの8割にしかなりません。それぞれのスプーンが大きいか小さいかは問題ではなく、すべてのスプーンの合計だけが問題になるのです。
 ジノテフランのADIは1日当たり、体重1㎏当たり、0.22㎎です。体重が50㎏の場合、1日に11㎎以下なら、一生、毎日食べ続けても安全です。基準値いっぱいの25ppmが残留したお茶を、1回2g、1日10回飲むと、合計で20g。そこに含まれるジノテフランは0.5㎎で、ADIの5%以下です。
 しかも、基準まで残留しているお茶はないので、実際の摂取量はずっと少なくなります。
 作物ごとの基準値が安全と関係があると誤解している人を多く見かけます。安全を守るのはADIであり、これが変更されない限り、安全は守られるのです。基準値の大小は安全性には影響がないことを覚えておいて頂きたいと思います。

 唐木先生への質問などございましたら、本紙迄。03―3831―5281。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

唐木先生画像

 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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