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【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐3‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐3‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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 農薬は、一生食べ続けても悪影響がない「一日摂取許容量」により安全が守られていることをお話ししました(本紙5月18日号)。
ところが週刊誌を見ると、「大部分の作物や食品から農薬が検出された」などと、それが危険であるような書きかたをしています。農薬が検出されたら危険なのでしょうか。
 科学が発達して、食品中のごく微量の物質も測定できるようになりました。例えば、ppbという単位があります。これは10億分の1という意味ですが、その量を一円玉で考えてみましょう。
 一円玉の重さは1gなので、10億枚なら1000㌧。オリンピック用の大きなプールがほぼいっぱいになります。その中の1枚に印をつけて、それを探し出す。それが1ppbという量を探す最新の技術です。さすがに、それより少ない量になると、測定はむずかしくなります。
 各都道府県は市販の食品を検査して、残留農薬が基準に違反していないか調べています。平成29年度の東京都の検査結果を見ると、野菜、果物など328の食品を調べたところ、48の食品から、1から1000ppbの農薬が見つかったけれど、その量は基準値以下で、違反はなかったと報告しています。
 「どんなに微量でも、農薬は嫌だ」という人もいると思いますが、調査で農薬が見つからなくても、入っていないわけではありません。ppb以下の微量なら、入っていても分からないからです。
 そもそもすべての植物は、害虫や細菌から身を守るために、多くの種類の天然化学物質を持っています。例えばキャベツには49種類の天然化学物質が含まれています。それを食べても大丈夫なのか調査したのが、1997年に日本国際賞、98年に米国国家科学賞を受賞した米国のエイムズ博士です。
 博士は米国人の1日の食事にどのくらいの化学物質が入っているのか調べたところ、なんと1.5gも入っていました。その種類を見ると、コーヒーに含まれるカフェインなど、多くの種類の天然化学物質でした。そして、驚くことに、それらの天然化学物質52種類のうち、約半数の27種類に発がん性が認められたのです。ということは、私たちは野菜や果物に含まれる天然の発がん性化学物質を毎日食べているのです。
 それでは野菜や果物を食べたらがんになるのでしょうか。厚生労働省が行った日本人八万人の調査では、野菜や果物を食べてもがんは増えず、逆に胃がんは減っています。それは、発がん性化学物質の量が少ないこと、私たちの肝臓には化学物質を無毒化して排出する強力な代謝酵素があること、そして野菜や果物にはビタミンなど体にいい化学物質もたくさん含まれているためです。私たちは大昔から野菜や果物の天然化学物質とうまく付き合ってきたのです。
 このように、米国人の食事には多量の自然の化学物質が入っていますが、残留農薬はその1万分の1以下の微量しか入っていませんでした。もちろんそれは一日摂取許容量よりずっと少ない量です。
その野菜や果物を食べると、毛髪や尿に、天然の化学物質とともに、わずかな量の農薬が含まれることがあります。しかし、その量は健康に影響がない微量であり、そもそも発がん性の農薬は1つもないのですから、心配することはありません。


唐木先生への質問などございましたら、本紙迄。03―3831―5281。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】

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 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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