JA全農 施設園芸の実証試験を開始 CO2を直接回収 膜DACで施設内に供給
JA全農は12月3日、神奈川県平塚市のJA全農営農・技術センターで「農業分野でのDAC技術活用を目指す実証試験開始の説明会」を開催した。DAC技術とは、分離膜型DAC装置により、大気から二酸化炭素(CO2)を直接回収するもの。実証試験では、全農の研究施設の農業用ハウスにおけるトマト栽培で、大気から直接回収したCO2を施設内に供給することで、化石燃料を用いずにCO2の濃度を高めてトマトの光合成を促進させ、収穫量を増加させることを目指す。
JA全農、九州大学、Carbon Xtract(以下CX社)、双日、三菱UFJ銀行は今年3月、大気からのCO2の直接回収(Direct Air Capture、以下DAC)を可能とする分離膜型DAC(以下膜DAC)装置の施設園芸用途における早期社会実装に向けた連携協定を締結。このほど、実証試験に使用する膜DAC装置の試作機が完成し、実証試験を開始することになった。
説明会では、始めに九州大学の藤川茂紀教授が膜DACの研究開発について、「地球温暖化対策の一環として、CO2の排出を抑制する技術の導入が進められているが、それだけでは足りず、大気から直接的にCO2を回収する技術が必要とされている。CO2分離・回収技術は、溶液吸収、個体吸着、膜分離の3つの技術に大別される。我々が注目しているのは膜分離で、フィルターを用意してCO2をこし取る技術について研究開発を進めてきた」と説明した。
そのうえで、膜分離法のメリットとして、簡便かつ省スペースで吸収液などの薬液を使わず、任意にサイズ調整が可能であり、設置場所に制限がないことを挙げた。開発した膜の性能について、厚みは約34nmで食品用ラップの300分の1程度の薄さ。CO2透過度は世界トップレベルで、これまで報告されてきた分離膜性能の約20~30倍程度とし、「これにより、非常に低エネルギー、低コストでCO2を空気中から直接どこでも回収することが可能になる」と述べた。
続いて説明に立ったのは、昨年5月に九州大学と双日の協業により設立されたCX社の森山哲雄社長。CX社は膜DACの製品実用化と利活用を推進し、小型・分散型DAC市場におけるリーディングカンパニーを目指している。
森山社長は、海外の巨大なDACプラントを例に挙げ、「そうした工場では、多くのエネルギーや大量の水が必要。また、場所も限定され、大きな投資も伴うので、一部の大企業が一部の場所で行う脱炭素の取組にしかならない。企業の大小を問わず、個人までもCO2を回収して世の中に貢献できるような世界を作りたいと、我々は会社を立ち上げた」と語った。
そのうえで、小型の膜DACをどのような用途で使えるか探索していく中で、全農と農業向けの装置を作っていくことで合意。社会実装を早く進めるため、三菱UFJ銀行と双日も入り、連携協定締結に至ったとし、「大気中のCO2を回収し、それを野菜に提供するという、環境にも貢献しながら収穫量も上げるソリューションを作っていきたい」と語った。
最後に、全農耕種総合対策部の中澤秀樹次長は、過去の研究論文から、温室内のCO2濃度が大気中のCO2濃度と同程度である400ppmを下回ると成長量が極端に低下し、逆に450ppmまで高まると12%増加するなどと説明。そのうえで、今回の実証試験について、「膜DAC装置を設置した研究温室は6月に新設。現在は液化炭酸ガスによりCO2を施用している。これは購入するもので、コストも高い。実証試験では、膜DAC装置の施設園芸適性を評価するとともに、液化炭酸ガス施用の代替となるか調査。また、当該装置の副産物である排熱や水などの利用について可能性を検討する」と述べた。
その後、研究温室に移動し、膜DAC装置を披露。実用化は、2年後に目途が立つという。