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生産・機械・流通からスマ農を検証 10年後の食料・地域 鹿追のキャベツから考える

生産・機械・流通からスマ農を検証 10年後の食料・地域 鹿追のキャベツから考える

 東京ビッグサイトで開催された『スマートアグリジャパン』で、7月24日、『キャベツ自動栽培・収穫からみたスマート農業と流通最適化』をテーマに、鹿追町で同プロジェクトを推進してきた4者が参加し、パネルディスカッションを行った。コーディネーターは、東京大学大学院情報理工学系研究科の深尾隆則教授。パネリストにはヤンマーアグリの開発統括部技監・先行開発部の日高茂實部長、鹿追町農協営農部農産課の今田伸二氏、㈱K PRODUCEの木村幸雄会長。

 始めに深尾教授が論点整理。「日本では、基幹的農業従事者の約7割が65歳以上だ。5年後、10年後、私達は必要な食物を入手できるのだろうか。また、農業と密接な地域社会の維持といった課題もある。課題解決には新規従事者を増やす取組や生産性の革新的向上が必要だ。こうした中、スマート農業に期待が寄せられているが、一方でスマート農業の導入の難しさも指摘されている。今回はスマート農業をいかに導入し、発展させていくか、現場感覚に基づくアイデアを共有し議論する機会としたい」と述べた。


【鹿追町農業協同組合・営農部農産課フィールドスーパーバイザー・今田伸二氏

 

今田氏は北海道農業改良普及員を経て、22年前に鹿追農協に。
 北海道鹿追町は帯広市の北にある人口約5000人の町。山手線の内側に相当する約1万1000ha超の耕地面積を178の農家がカバーし、農業生産額257億円(2023年)をあげている。そのため〝極力機械化する〟が鹿追町の方針だ。
 鹿追町のスマート農業はというと、自動操舵付きトラクタは200台以上普及。種馬鈴薯のAI選別は世界初で導入、秋まき小麦の生育リモートセンシングを用いた可変施肥、キャベツの精密出荷予測システムの実証(メタンガスから水素を取り出し活用)。そのほか、国のSIP事業でバイオガスプラントによる家畜糞尿処理とエネルギー対策も進めている。
 キャベツ栽培は昭和62年くらいから。一貫して機械化体系を進めてきた。作型のコントロールのためほぼ全ての農家が育苗センターで苗を購入、収穫はほぼ1回で済む。平成24年収穫機導入。普及が始まった。ヤンマーにより、約10年前から、無人収穫機の開発が始まった。課題は段ボール詰めだった。収穫能力に対して段ボール詰めの能力が追い付かなかった。それで鉄コンのワンウェイリース、今に至っている。


【ヤンマーアグリ・日高茂實部長】

 

日高氏は鹿児島県屋久島出身。1986年京都大学農学部農業工学科卒業後、ヤンマー農機入社。コンバイン16年、トラクタ14年、開発一筋だったが、2017年に転機、システム連携開発部部長。18年先行開発部部長。現在に至る。
 ヤンマーのスマート農機を振り返ると、2018年ロボットトラクタ(スマートパイロットシリーズ)上市。その後田植機、直進アシストトラクタ、中耕用トラクタ、コンバイン、2023年には無人スプレイヤー(フランス)。
 RTKの情報を使って何がわかるか?といった研究開発を行っている。機械が動くことによって、どこでどんな作業が行われているかが分かり、収穫予想や収穫適期が把握でき、そのほ場の作物に必要な作業に機械を自動的に導く。機械の動きがリアルタイムで分かり、収穫実績が表示でき、デイリーチャートができ、作業したところから面積・場所が見えてくる。最終的には、データを活用し少ない人手で持続可能な農業ができる。


【木村幸雄・KPRODUCE/野菜流通カット協議会会長】

 野菜流通カット協議会が発足したのは、2015年だが、日本で初めて某社がカットサラダを作り始めたのが1999年だ。当時からカット野菜の原料(産地づくり)に関ってきた。〝加工業務用〟という言葉が出てきたのも、深尾先生と出会ったのも、その頃だ。キャベツの収穫機を鹿追町に納入した。最初は斜め採りがたくさん出てしまう状況だった。それでも国の要請もありキャベツ収穫機のセミナーを行うと驚くほど人が集まった。それだけ現場が収穫機を必要としていたということだろう。野菜流通カット協議会のセミナーでキャベツの収穫機を取り上げた。ここから、ハクサイ、ブロッコリーの収穫機への応用へと広がっていった。特に衝撃だったのは、深尾先生から無人の収穫機ができるよと見せてもらった時。そのスマート農業も加工業務用と連動していくことで成果が出せるものだと思っている。


【深尾教授】

農業はなかなか最適化されない。しかし、伸び代はある。農業は、徐々にではなく、一気に変えていかなければならない。我々はヤンマーさんに、機械開発をたくさんしていただいているが、その中で感じるのは、機械は必要になったからと言ってすぐには出来てこない、安くも作れないということだ。
 もう1つは、機械は栽培に近づいていかなければならない、それと同時に栽培も機械に近づけていかなければならない。加工・流通の視点もさらに重要になっていく。最終的には農家が儲かり、農業が魅力あるものになって、新規就農者が入ってきたいものにならなければならないからだ。

 

 

機械と人の手のマッチング

  その後、パネルディスカッション。
 今田氏「スマート農機は切実な問題として導入しているが、機械はこれを入れたら楽になるというだけではダメだ。機械のコストと販売金額が見合うか(例:カボチャ)、更に、収穫の場合、オペレーターの後ろで手作業をする人員がいるが、その作業バランスもある。また病気部分を除去する選別作業は地上で行いたいなどの要望もある。そうした栽培に関わる全てをトータルで考えていかないと本当の意味での効率化にはならない」
 深尾教授「機械のレベルを全て要求通りまで引き上げるにはコストがかかる。それでも購入してもらえるかの問題もある。流通まで含めて、全体のコストを下げつつ、新しい機械の限界も上げながらと、いうことができないものかと思う」
 今田氏「加工工場では多くのゴミが出る。全体の3分の2はゴミなどという例さえある(里芋など)。生産現場で加工できれば流通コストを圧縮できるのでは」
 木村会長「生鮮品なので1週間以内に消費するなどの縛りもある。ただ、無理と切り捨てずに方法を探したい。一つ、念頭において欲しいのは、消費者が要求する納品の形態が全く変わってきているということだ。里芋はボイルしてレトルトに近いパックにするなど消費者が最終で求める商品化のレベルが上がっている。一方で、外国人労働者なしには加工工場は回らない。人手不足はどこでも深刻だ。ところで流通から生産者さんにお願いしたのは、今年の生産量は必ず守ること。生産を落とさないことだ」
 深尾教授「村単位くらいの規模でブランドを立ち上げるネットワークを作り、技術を理解して最適な機械を導入する。流通を含めた生産体制を作っていくこと。そんなこともこれからは必要ではないか。ところで、日高さんに、機械メーカーとしてはどう考えるかお聞きしたい」
 日高部長「農機メーカーである我々は、農家さんには、ホビー農家、中小規模農家、大規模な法人経営の3種類があると思っている。そして、大規模な農業法人の人達は、数は減るが、巨大になっていくと考えている。土地が足りなくなったら、自分の場所以外にも農地を求め、1000haも超す経営となっていく方たちもかなり出てくると考えている。大きく変わる農業、そのような経営にどう対応してくか考えている。しかし、私の実家もそうであったが、中小規模。ここは非常に厳しい。色々と複合農業をやりながら、凌いできたが、なかなか高額な機械への投資は難しいだろう。では、どうすればいいのか?これは全く個人的な考え方だが、地域の農業はコミュニティー全体で支えるようにしなければならないのではないかと思っている。申し訳ないが、機械はどうしても高くなってしまう。しかしレンタルやシェアリングにも問題がある。使用時期は一斉だし、作業するのだから何かが潰れて返却されることもあるかもしれない。地域の大規模法人さんに力を貸してもらえないか。また、そのつなぎを、原料の必要な流通加工の方にもやってもらえないかとも考える。その時、我々のRTKは役に立つはずだ。そうなれば、農業は続く。農業はしんどいが、農は楽しいから」
 深尾教授「農業を活気あるものにし、若者たちがYouTubeを見て面白そうだから帰ってくる、そうなってほしい。もう1つ、農産物など海外から買えばいいというのは、どうだろう。世界でも若者達の農業離れが進んでいる」
 木村会長「〝人の手に敵うものはない〟。大事なのは機械にはどこまでやってもらって、最後は人の手でここまでやる。それをマッチングすることで思う機械を作れるのではないか」
 深尾教授「皆で知恵と力を出し合い農と地域を守っていかなければならないですね。これからもよろしくお願いします」。

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