四季から二季へ劇的に変わる日本 地球環境の構造変化 三重大・立花義裕教授に聞く
昨年は記録的な猛暑となり、「地球沸騰化の時代が到来した」と国連事務総長がコメントした。産業革命以前から1.5℃以内に収めることが目標とされているが、2023年は+1・45℃。いよいよ正念場を迎える。生存をかけた課題に本気で取り組まなければならない。そのためにはまず敵を知る必要がある。たまたま異常気象が続いているわけではない。そこにはその現象が必然となる理由がある。三重大学で気象・気候ダイナミクス研究室を主宰する立花義裕教授に聞いた。
夏と言えば、出会いの予感だとか、楽しいことが待っているとか、かつては肯定的なイメージが先行していたが、近年は異常高温、猛烈な豪雨と不安が先立つ。特に農業関係者にとっては死活問題だ。
その中、「気候のレジームシフトが起こっている」と、立花教授。
レジームとは地球環境の基本的な構造をさし、その在り方ががらりと変わったと言う。以前なら異常な年もあれば、正常な年もあるという形だったが、「2010年以降は、常に平年気温が高く、1年たりとも平年より寒い年はありません。北日本は特にです。そして2023年には暑さの記録が塗り替えられ、もう一つ上の段階になったのではないかと思っています。アナザーワールドです」。世界気象機関(WMO)の『2023年地球気候の現状に関する報告書』によると、2023年は174年間の観測記録の中で最も暑い年となった。
その根本には「CO2放出に伴う地球温暖化があります」。ではなぜ温暖化が進むと異常気象となるのか。
まず「北極が赤道付近に比べて激しく温暖化していることに要因があります。北極が寒い理由の一つは雪と氷に覆われた白い世界だからです。そのため太陽光を反射し、温度の上昇が妨げられますが、温暖化により海氷が溶け、白い部分が減っています。それにより他の地域と比べて温暖化が加速します」。ベーリング海の氷も溶け、太平洋の暖かい水が流入しやすくなり、シベリアの永久凍土も溶け、そこに閉じ込められていたメタンガスが放出され、さらに温暖化を進めることになると言う。
「これらが偏西風の蛇行を招いています」。偏西風は西から東へ、寒い地域と暖かい地域の境目に吹き、以前は比較的真っ直ぐな流れだったが、「2010年を境に、激しく蛇行する年が増え、また日本の北を迂回する形となっています。蛇行の理由は温暖化により、北極付近と赤道付近の温度差が小さくなり、それに比例する偏西風の速度が遅くなっているからです。川は急流で真っ直ぐ進みますが、緩やかになると蛇行します。空気の流れもそれと同じです」。
北へと蛇行するのは「大陸から暖かい風が日本に吹き込み、それを避けようとするためであり、また高気圧は気流が時計回りで、西から東へ吹く偏西風とその南側で流れの向きが同じとなり、蛇行した部分に高気圧がはまりやすくなります」。それが偏西風を北へと押しやり、日本が暖かい空気に覆われるようになった仕組みだと立花教授は解説した。
また「偏西風の蛇行は北極の寒気を東西に引き裂き、日本や北米に寒波をもたらしています。北極の寒さが直接日本に来ている形です。冬が寒いから温暖化ではないと言う人がいますが、原因は温暖化にあるのです」。
エルニーニョ現象も今までに無い動きをしている。「これまでのエルニーニョ現象の場合、ペルー沖(太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて)の海水温が上がると、フィリピン沖(太平洋赤道域の中部から東部)の海水温が低くなり、日本は冷夏になると言われていましたが、昨年は猛暑となり、もう理論が通用しなくなってきています。今回のエルニーニョ現象は、ペルー沖もフィリピン沖も海水温が高く、世界が変わってしまった、まさにアナザーワールドだと感じています」。
その中で注目されるのが、日本近海の海水温。「日本近海の水温が世界で一番高くなっています。今でも平年より5℃以上高い。水温が高いと暖かい空気が流れ込み猛暑となり、また水蒸気を含んだ空気が大雨をもたらします。黒潮も寒流に阻まれることなく北海道近くまで北上し、取れる魚も変わってきています」。
当然、作物にも大きな影響があり、栽培適地が変わり、品質にも深刻なダメージを与えている。世界中で同様のことが、あるいはもっと深刻な状況が起き、「自国のために食料を確保しようとする動きが生まれ、食料を輸入にばかり頼っていると非常に困ることになります。また食料の価格も高騰、暴動や紛争にも繋がり、食料を求める気象難民の増加も考えられます」。
海水温が上昇しているのは非常に危険な状態だと言う。「大気の温度は比較的変化しやすいのですが、水温はそうはいきません。温暖化があるレベルを超えたら、CO2を減らす努力をしても元の気候には戻らないという多くの研究があります。ティッピングポイントを超えた世界、振り子が振りきった状態です。よく言っていますが、このままだと気象の極端化が進み、四季のある日本の秋と春が短くなって、長い夏と雪はあるけれど、寒暖差の激しい短い冬の二季の国になってしまいます。今、その瀬戸際にいると思っています」。
政府は2030年度において、温室効果ガス46%の削減(2013年度比)を目標とし、さらに50%へ挑戦するとしているが、「5年以内に半分ぐらいに減らさないと間に合わないのではないでしょうか」。
まず我々ができることは、CO2を減らすこと、それが最大の課題となる。「100人中の一人だけが100%の努力をし、99人が全く努力しないよりも、一人一人が1%の努力をして継続することが大切だと思います」。
今年の夏も暑くなりそうだと言われている。「エルニーニョは間もなく終わると言われていますが、夏になってラニャーニャが発生すれば、猛暑に拍車がかかります」。しかしそれは一つのチャンスかも知れない。多くの人の意識が根本的に変われば、未来が変わる。試練の夏が来る。