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【イチゴの品質・収量の向上特集】 複合的環境制御で 次世代型生産技術を開発

【イチゴの品質・収量の向上特集】 複合的環境制御で 次世代型生産技術を開発
目次
 イチゴは世界各国で食べられているが、生食での消費量はわが国が最も多いと言われている。品種も約300種と多く、個性的な新品種も続々と誕生。国産イチゴは海外でも人気が高く、輸出も増加傾向にある。一方で、生産現場では、担い手の高齢化や後継者不足などにより、作付面積や生産量の減少が課題。また、近年の原油価格高騰により、施設栽培における生産コストの上昇も問題となっている。このようななか、省力的に品質や収量の維持・向上を図る技術が求められている。

複合的環境制御で 次世代型生産技術を開発

  

 

 わが国では、今後20年間で、基幹的農業従事者は現在の約4分の1(116万人→30万人)にまで減少することが見込まれている。また、農水省の統計調査によると、令和4年の全農業経営体における全営農類型平均の農業経営費は、動力光熱費などの増加により、前年比12・2%増の1067万4000円。生産コストも上昇している。
 こうしたなか、イチゴの生産現場においても、高齢化や後継者不在による人手不足、品質や収量の向上が課題。これらの解決に向けては、省力化・高品質生産を実現するスマート農業が期待されており、各地で取組が進められている。
 それでは、イチゴ生産の現状はどうなっているのか。収穫量55年連続日本一など、わが国トップクラスのイチゴ産地である栃木県の農業試験場いちご研究所がまとめた資料からみてみたい。
 令和4年産の全国イチゴ収穫量は16万1100t、作付面積は4850‌haだった。都道府県別にみると、収穫量が最も多いのは栃木で2万4400t。次いで、福岡1万6800t、熊本1万1700t、愛知1万600t、静岡1万400tとなっている。
 一方、令和3年の産出額は全国で1834億円。都道府県別では、栃木248億円、福岡218億円、熊本140億円などとなっている。
     ◇
 省力化や品質・収量の向上に向けどのような取組が進められているのか。
 前述の栃木県農業試験場では、平成28年度から令和2年度まで、「いちごの次世代型(超多収・高収益型)生産技術の開発」に取組んだ。
 研究成果集によると、同県のイチゴ生産は、生産者の高齢化や後継者不足などにより生産戸数、面積ともに漸減傾向にあり、産地の維持拡大を図るためには、より収益性の高い魅力あるイチゴ経営モデルの確立が求められている。そこで、イチゴの光合成促進や花成安定に視点をおいた複合環境制御による周年栽培体系の確立により、従来の2倍超となる単収10a当たり12tを安定的に確保可能な次世代型技術の開発を目指した。
 その結果、「とちあいか」の促成作型(収穫期間10~7月)において、赤色LEDによる日長延長処理、炭酸ガスの日中施用、クラウン部温度制御技術などの複合的な環境制御により、単収10a当たり12t以上が確保できた。
 このほか、イチゴ生産については、農研機構や北海道農政部などが令和2年3月に「大規模いちご生産技術導入マニュアル」を作成した。
 同マニュアルは、四季成り性品種〝すずあかね〟と一季なり性品種〝とちおとめ〟別に栽培管理のポイントや共通事項などについて、次世代施設園芸北海道拠点(苫小牧市内に整備)での研究成果やこれまで得られた知見などから整理、同拠点での従業員に対する講習等への活用を行うべく作成したもの。「すずあかね高設栽培マニュアル」は▽品種特性▽定植の準備と作業▽定植後の管理(1カ月)▽株養成期の管理(定植1カ月~収穫前)▽収穫始め~収穫終了―といった項目で構成されている。

 

生育測定や需要予測 スマート 農業活用で収益性が2億以上に

 

 

 農研機構の「スマ農ポータル」から、実証プロジェクトにおけるイチゴ生産の収量向上、省力化などの成果をみてみたい。

つづく農園(茨城県常陸大宮市)

 実証面積は10a。中山間地における直売型イチゴ経営の発展に向け、スマート営農に取組んだ。導入技術は、①ユビキタス環境制御②AI養液土耕③生育の自動測定④需要予測⑤アシストスーツ―など。
 その結果、可販果収量について、低コストな環境制御やAI養液土耕装置による温湿度・養水分等の管理により、令和2年度作は慣行区(平成30年度作、10a当たり4・2t)と比較して35・7%増加し、目標を達成。また、出荷量予測と集客予測から需給を把握し、販売方法を最適化することで、令和2年度作は平成30年度作対比で販売単価が22%向上し、目標を達成できた。
 更に、アシストスーツの活用により、作業時間は慣行区と比較して年間で5・17%(10a当たり130時間)削減。また、作業の負担軽減(腰痛軽減)効果も確認できた。
 収益性(所得)は、慣行区(平成30年度作)と比較して、スマート農業区は278%(令和2年度作)と255%(令和3年度作)に増加し、目標を十分に達成できた。
JA阿蘇いちご部会委託部(熊本県阿蘇市)

 実証面積は37・3a。中・大規模経営体等において、データの可視化技術を活用した多収省力型一貫作業体系の構築に取組んだ。導入技術は、①局所適時環境調節技術による多収安定生産技術②画像情報とほ場内環境測定による生育環境・収穫情報の収集技術―など。
 主な結果では、「恋みのり」を用いた局所適時CO2施用実証区(1200‌PPM)では、慣行施用区(ハウス全体を400‌PPMで濃度制御)と比較して、換気条件下でも株周辺のCO2濃度を高く維持でき、5月末までで16%(年内収量は57%)の増収を達成した。「ゆうべに」を用いた適時CO2施用区では、無処理と比較して3月末までで11%の増収を達成。また、灯油使用量は、適時CO2施用下で30%以上の大幅な削減を確認(達成)した。
 スマート農業技術の導入により、「恋みのり」の場合、対照区と比較して実証区では販売額が1%減少するが、10a当たり経営費0・8%、労働費0・3%が低減し、収益性は農業所得2・1%、農業純利益2%増加し、費用削減により収益性の向上が図られた。

 

パナソニックライティングデバイス 紫外線で免疫活性化 うどんこ病発生抑制

 

 

 パナソニックライティングデバイス=坂本敏浩社長、大阪府高槻市幸町1―1=は〝あかり事業〟を通じて様々な製品を提供しているが、イチゴの生産現場には「UV―B電球形蛍光灯」を展開し、品質や生産効率のアップに貢献している。適度な紫外線をイチゴの葉に照射することで免疫機能をアップし、うどんこ病を抑制。ハダニの増殖抑制も期待できる。 紫外線は波長の違いによりA、B、Cの3タイプがあり、UV―Bは太陽にも含まれる280〜315‌nmの波長を持つ紫外線。このUV―Bを葉に照射すると、イチゴがストレスを感じ、身を守ろうとして免疫機能が活性化する。この機能を利用して適度(目安:夜間1日3時間)な刺激を与えてイチゴの重要病害であるうどんこ病の発生を抑制する。
 副次効果として品種によっては色づきが良くなり糖度が上がる。
 また、UV―Bの波長にはハダニの卵の孵化、発育、産卵を抑制する効果がある。葉裏に生息するハダニやハダニの卵には光が届かないが、反射シートとの組み合わせでより効果的な抑制ができる。UV―Bは天敵のカブリダニとも併用が可能。IPMに有効な資材となっている。巣箱に直接UV―Bが入り込まない配置とすることで、ハチへの影響も低減できる。
 また、他作物ではバラのうどんこ病やキクの白サビ病抑制でも効果が確認できている。
 同社では紫外線を照射する機器を2009年から展開していたが、電球形として簡単にソケットに取り付けられるタイプになったのが2014年。減農薬を推進するものとして、各地の意欲的な生産者が導入をすすめ、観光農園での導入事例が多い。メリットとしては農薬の使用量・散布回数を減らし農薬費、作業時間、人件費を削減。病害をチェックするストレスも軽減される。
 病害によって損なわれる果実を減らすことで収入の増に繋がり、10aで60~70個程度のランプが必要になるが農研機構が行った実証では短期間での投資回収が可能なケースも示されている。
 1個当たりの消費電力は24W。10a70個、定植期間8カ月(10月〜5月)にかかる電力代は約3万7500円(31円/‌kW・h)。照射効果は約4500時間(約6年:夜間3時間・8カ月点灯時)続く。
 同製品は軽量・コンパクトで、設置の高さでA(SPWFD24UB2PA)・B(SPWFD24UB2PB)・E(SPWFD23UB4PE)の3タイプがあり、Aタイプは集光する傘があって比較的高所(約2m)からでも照射可能。Bタイプ(在庫限り)は距離がとれない高設栽培向き。EタイプはBタイプの後継機種。全て電球形蛍光灯と同型状でE26ソケットに取り付け可能。
 設置する高さや個数によって紫外線強度が高くなり、葉焼けを引き起こす場合もあり、設置設計をしっかり行う必要がある。また蛍光灯のため水銀を使用しており、水銀に関する水俣条約第5回締約国会議(COP5)で、一般照明用蛍光灯について製造・輸出入の規制が決定されたが、UV―B電球形蛍光灯は一般照明には該当しないため、同規制の「対象外」。


ストロングンテ

 同社では、白熱電球のフィラメント技術を応用したタングステン耐切創手袋「ストロングンテ」を発売している。一般的なステンレスの約2倍の強度を持つタングステンを髪の毛の約4分の1の細さに加工して編み込んだもの。園芸や剪定で鋭利な刃物などを扱う際、手を切ってしまう事故を防ぐ。耐切創レベルによってデイリーユースとプロユースがあり、デイリーユースは15ゲージ編みの薄手で指先までフィットするため、安全を確保しながら作物の調製作業が可能。

 

ホタルクス 赤色LED電球など 農業の困り事へアプローチ

 

 

 国内照明メーカーのホタルクス=山村修史社長、東京都港区芝=(旧NECライティング)は、光の力で様々な農業の困り事にアプローチする農業用シリーズを、昨年9月に発売。直後の昨年10月に開かれた「農業WEEK」においても大きな注目を集めた。今回の発売を皮切りに、現代の農業分野の課題であるコスト抑制、省人化、減農薬、生産性向上解決に貢献し、我が国の食料自給率向上に寄与したい考え。
【HotaluX AGRI―RED (赤色LED電球)】アザミウマの忌避に最適な赤色波長を採用し、アザミウマ忌避+電照のダブル効果が期待できる。簡単に取り付け着脱可能な電球タイプで、既存のソケットがあれば工事不要、省電力化も享受できる。2.5~3mピッチでのハウス内全面設置を推奨しているが、ハウス内を囲う様に設置しても効果が期待できる。福岡県の観光農園では、昨年10月にハウス内を囲う形でAGRI―REDを設置。例年アザミウマ被害に悩まされていたが、秋口は被害が見られなかった。今年3月初旬に、2~3株被害が見られたが、設置していない棟と比較して、圧倒的に被害が抑えられている。


【HotaluX AGRI―UVB(UVB直管ランプ)】

UVB照射でうどんこ病の発生を抑制、省力化と減農薬が期待できる。広範囲に均等な照射を可能とするライン光源(直管形状)で、ガラス飛散防止加工を施しているため、万が一割れても安心。間口6~7m以下で、ハウスの中心1列設置で効果が期待でき、設置個数を抑えられる。宮崎県のイチゴ農家では、昨年10月にハウス中心1列にAGRI―UVBを設置。今年1月時点で設置していない棟でうどんこ病が確認されたが、設置している棟では、全く発生していないことを確認した。

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