政策動かす役割も 農研機構が130周年記念シンポジウムで各界から期待・提言
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農水省農林水産技術会議の小林芳雄会長らが挨拶
シンポは始めに久間理事長が挨拶。また、来賓として農水省農林水産技術会議の小林芳雄会長が「日本は、温暖化、人口減少など、待ったなしの局面に入っている。このような中、研究は、先を見通し、打つ手を柔軟に変え、ステークホルダーと連携して、 技術で困難な課題の解決を成し遂げること、異分野融合やスタートアップを含む産学官連携のハブとしての役割が求められている。現下の試験研究に課された重大な使命を果たされることに改めて大きく期待している」と祝辞を述べた。
基調講演は日本総合研究所創発戦略センターエクスパートの三輪泰史氏。「農業・食品産業の可能性」をテーマに現状と今後の展望を語った。加えて農研機構に対し「現在は農水省が作った政策とそのなかで出てきた課題を技術で解決するという流れ。しかし、これからは『こんな技術があればこんな政策ができる、こんな農村にできる、こんな農業経営にできる』といった形で、農研機構発で政策を動かしていくようなアクションが必要なのではないか」などと期待を語った。
科学技術イノベーション創出を目指して
第1部は「科学技術イノベーション創出を目指して」と題し農研機構の戦略と取組を紹介。それぞれの担当分野を説明した後、パネルディスカッション形式で議論を深めた。このうち、理事(研究推進Ⅱ担当)の湯川智行氏はスマート農業の普及について「スマート農業は実証事業が2019年にスタートし、これまで200件以上行われてきた。今後、横展開や、社会実装を加速するには、低コスト化と導入した時にいかに効果が上がるのかということが事前に分かることが重要な鍵になる。実証事業では、データ駆動型農業経営の実現を促進するため、WAGRIを利用し実証経営体のデータを蓄積してきた。このデータを活用して、 経営規模などの経営条件や導入するスマ農技術を設定することで、規模拡大の可能性や収益増大の可能性がシミュレーションできるシステムを開発した。現在は水田作のみだが、野菜作等にも展開し、スマ農技術の普及拡大に貢献したい」とした。
また、スマート農業と生産性向上について「生産性は、 労働生産性と土地生産性の2つに分けられる。労働生産性の向上は主に作業効率の改善によるもので代表的なのが、自動運転田植機やロボトラ。一方、土地生産性の向上には、 生育モニタリングや肥培管理の改善などで収量が向上するもの。土地生産性を改善させるスマ農技術は、未完成の部分が多く、今後の課題が多く残されていると考えている。さらに、土地生産性と労働生産性を同時に高めていくことも考えなければならない。例えば、 水田の水管理システムの場合、管理時間を減らせるという労働生産性の向上だけでなく、生育状態に応じた的確な水管理により収量を向上させるという技術に昇華させ、土地生産性をも高めていくことが重要」だとした。
第2部はパネルディスカッション「農研機構が創る食と農の未来―各界からの期待・提言―」。東京大学の生源寺眞一名誉教授、全農の野口栄理事長、NTT東日本の澁谷直樹社長、外務大臣科学技術顧問の松本洋一郎氏、東京都農林総合研究センターの村上ゆり子所長が、テーマに基づき意見を述べ、パネルディスカッションが行われた。