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新しい病害虫防除 データ活用技術など紹介

日本植物防疫協会(早川泰弘理事長)は9月20日、都内の会場とオンラインでシンポジウムを開催し、全国から約700名が参加した。テーマは「新たな時代に向けた病害虫防除体系を考える」。今年、みどりの食料システム法が制定、また植物防疫法が改正された。農薬の50%削減(リスク換算)、総合防除(IPM)の推進、栽培暦の見直し等が謳われており、これまでの防除指導や防除体系に大きな影響があると予想される。当日は、農林水産省や県、メーカー等5名の講師が講演。
 早川理事長は冒頭の挨拶で、「IPMの理念は誰もが異論をはさむ余地のないものだが、これまで普及してこなかったのは手間がかかるというのが最大の要因。一方、最近の各種新技術の課題は低コスト化だ。防除の基幹資材である化学農薬については再評価や使用時安全・ミツバチ等の規制強化、最近の国際情勢を反映した資材価格の高騰等により、適用範囲の縮小、新規剤の開発スピードの鈍化、価格の問題等が現実となっている。そのような状況下での化学農薬使用の在り方としては、病害虫の抵抗性管理を意識しながら薬剤の種類を的確に選択し、できるだけ使用回数と使用量を節約して大切に使い、長持ちさせることであり、これは『省力化と低コスト化の両立』に他ならない」などと述べた。
【我が国の植物防疫の在り方と展望】農林水産省消費・安全局植物防疫課防疫対策室・羽石洋平氏。
 植物防疫法の改正(施行期日は令和5年4月1日)により、国内防除では「予防・予察」に重点を置いた予防、判断、防除の3つの枠組みで総合防除を推進する。国は指定有害動植物の指定と総合防除基本指針を策定し、都道府県がこれに即して総合防除計画を策定。また必要に応じて計画の中に農業者が防除に関して遵守すべき事項を定める。農業者がこれに即した防除を行わず、農作物に重大な損害を与える恐れのある場合は必要に応じて勧告・命令ができる。
 また国は、農作物への被害や分布、増殖度、蔓延への警戒度を考慮して指定有害動植物を決定。これまでの111種から157種に広げる予定だ。
 今後は発生予察事業の更なる高度化が求められる。ドローン画像による病害虫発生量の調査、自動カウントフェロモントラップ、発生予察情報と経営管理ソフト等との連携などを進めていく。また、データを活用した総合防除の確立・実践に向け、防除効果やメリットを明確にしていく。近年は、筆ポリゴン等の地理情報や営農管理ソフトの利用が進み、データを活用した管理の環境が整いつつある。
【福岡県の水稲栽培における病害虫防除体系の考え方と今後の方向性】福岡県農林業総合試験場・清水信孝氏。
 福岡県の水稲では、過去の病害虫発生状況や農薬の防除効果等を勘案して指導機関が防除暦を作成する。また、その年の病害虫発生状況(飛来状況)や気象概況(予報)等を根拠とした技術情報を随時提供している。防除暦には、処理時期、対象病害虫、農薬名、処理量(濃度)等の情報を記載している。化学防除(農薬)が基本で、種子消毒、箱施用剤による育苗期防除と1~数回の本田期防除が基本。生産者は防除暦を基本に、技術情報を加味して防除を計画・実施している。
 水稲の病害虫防除暦は、その地域の問題病害虫を適切に防除できるように防除時期や手段、農薬の種類等を考慮して作成されている重要なツール。水稲では病害虫防除に対する知識や経験をあまり有していない兼業農家や副業的農家も多く、技術を補完するものでもある。また共同防除や一斉防除では共通基準としての役割も果たしている。
 水稲の防除体系策定にあたっては、①対象病害虫・防除時期を適切に設定②最適な農薬の選定(防除効果、コスト、使い勝手)③育苗箱施用剤の残効評価(本田防除に影響)④本田期の対象病害虫の同時防除で、どの病害虫に重点を置くか、また、多様な栽培条件に対応できるか(地域や品種などの条件、高密度播種育苗栽培、直播栽培などへの対応)などが考慮される。こうした中で、化学農薬だけに依存しない防除体系の構築が求められる。総合防除としては、種子温湯消毒、微生物農薬、スクミリンゴガイ抑制のための浅水管理、斑点米カメムシの発生源となる畦畔雑草の刈り取り、ヒメトビウンカの越冬源となるイネ再生株のすき込みが今でも行われている。各個別技術はIPM実践指標で示されているものの、複数技術を体系的に組み合わせた指針は策定されていないため、暦に織り込んでいく必要がある。また、有効な薬剤を長く利用していくためには、薬剤耐性・抵抗性を発達させないように、前年と異なる系統の農薬を防除暦に採用するなど、薬剤ローテーションを誘導することも必要だ。また海外からの飛来害虫の情報を把握できる体制を望んでいる。
【群馬県の野菜・特産作物栽培における病害虫防除体系の考え方と今後の方向性】群馬県農業技術センター・池田健太郎氏。
 群馬県ではこれまで、防除指針が核となり個別のマニュアル等が防除体系を提案してきた。ナス・きゅうりではIPMの導入が進んでいる。今後は、ドローンによるほ場の空撮情報や経営管理アプリによる耕種概要・栽培履歴、GIS、GNSSによる地図・位置情報など栽培や病害虫に関わる情報やデータを活用して、農薬・防除技術を効果的・体系的に展開することが必要だ。農林水産省が公開している農地区画情報(筆ポリゴン)では、各圃場毎の発病状況、作付けの記録や履歴調査が行える。GISや栽培記録によって、発病との相関関係などが分かっている。データを活用しながら防除を展開する中で、効果の高い防除技術も開発し、これらを体系化し、データ駆動型診断から防除技術の提案していくことが今後の姿になっていく。
【これからの病害虫防除体系において必要な視点】元農研機構・本多健一郎氏。
 IPMに基づいた防除体系を構築する際に心がけるべきポイントとしては、特定の防除技術に頼らない(天敵を使うことがIPMではない)、病害虫による経済的被害と防除コストのバランスを意識する。生産者自身や周辺環境への負荷を避け、持続的な病害虫管理を目指す。現場ほ場での病害虫発生状況を正しく把握し、効果的な対策を立てる。
【今後の農薬開発の方向性】住友化学アグロ事業部マーケティング部・河西康弘氏。
 今後の農薬開発の方向性として、化学農薬の新たな技術開発普及と共に、環境負荷の少ない、天然物由来の微生物農薬、植物生長調整剤、微生物農業資材等などのバイオラショナル(造語)製品ポートフォリオの拡充と社会ニーズの掘り起こし、バイオスティミュラントの法的根拠づくり等で、幅広い協力体制も重要だと指摘した。

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