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肥料特集 

  わが国の農地においては、水田の場合、全体の2割で可給態窒素が不足、畑地でもカリウムとカルシウムが過剰でマグネシウムが不足傾向にあるなど塩基バランスの崩れが見られており、「土づくり」の重要性が増している。一方、作物づくりに向けては肥料は欠かすことができないが、それをいかに効率的かつ適正に施用できるかが課題だ。近年は適正な施肥が可能な可変施肥技術や局所施肥技術の開発・普及も進んできており、農水省としても各種予算での普及支援に取り組んでいる。
農村ニュース2021年12月21日発行の「肥料特集」から動向を紹介する。(一部のみ)

目次

適正施肥でコスト下げ高品質実現

  農業において、高品質・高収量を実現するためには、土づくりは欠かせない。土づくりに向けては堆肥の施用や耕盤破砕などによる物理性の改善などが重要。併せて、土壌分析を行い、肥料の過不足をしっかり把握し、適切に散布することが求められる。  化学肥料については、その多くを輸入に依存しており、近年世界の人口増に伴う肥料需要の増加とともに、輸入価格も高騰している。こうしたことからいかに「必要な場所に」「必要な分だけ」与えるか、すなわち適正な施肥が作物の生育にも、コスト低減による農家の経営収支の改善にも重要となっている。  こうしたなかで、農水省では、令和3年度補正予算において肥料コスト低減体系緊急転換事業に取組むこととしている。同事業は化学肥料の原料に係る国際市況の影響を受けにくい生産体制づくりを早急に進めるため、慣行の施肥体系から肥料コスト低減体系への転換を進める取組を支援するもの。45億円を計上している。  事業では、肥料コスト低減体系への転換を各地域で検討する場づくりを支援する(検討会に係る旅費、謝金、会場借料、印刷製本費)ほか、肥料コスト低減体系の効果の情報発信(セミナー開催に係る会場借料、旅費、謝金、印刷製本費)を支援する。  更に肥料コスト低減体系への転換に向けては「土壌診断」(定額支援)と「肥料コスト低減に資する技術」(2分の1以内)を組み合わせて取組む際の経費を支援する。土壌診断(簡易土壌診断、リモートセンシングによる土壌診断、養液栽培の培養液分析、委託を含む)への支援は、土壌診断だけでなく、土づくり専門家等の施肥設計コンサルへの相談料についても支援する。なお、やむ得ない事情がある場合は、後述の肥料コスト低減技術等の導入後に次期作のために実施することも可能。  一方、「肥料コスト低減に資する技術等」については、土壌診断による施肥設計をもとに、新たに実施する「肥料コスト又は施肥量低減技術、低コスト肥料や国内地域資源活用肥料への切替」に係る技術導入経費を支援する。具体的には局所施肥・可変施肥に係る農機レンタル費、リモセン撮影・解析費、堆肥の成分分析費、10aあたり100㎏以上施用する肥料または土壌改良資材の運搬費、肥料または土壌改良資材の散布代行費、国内に地域資源活用肥料とその他の肥料を配合する場合の配合作業代行費、緑肥種子の散布代行費、緑肥の栽培管理・すき込み代行費など。肥料費(緑肥種子代を含む)、50万円以上の農業用機械施設の導入経費は対象外。また、肥料を切り替える際の切替割合や国内地域資源活用肥料の国内原料割合に条件はない。  なお、前作と全く同じ条件では同じ技術を導入することはできない。ただし、作物を変更した場合(品種、用途を含む。例えば、ネギからレタス、主食用米から飼料用米等)、堆肥や緑肥を変更した場合(例えば食品残さ堆肥から牛ふん堆肥、ソルガムからエンバク等)は対象となる。一方、取組面積の増加や技術を導入するほ場の変更は対象外。また、土壌診断については、前作で実施していた場合でも対象となる。  これらの支援の具体的な取組イメージをみてみたい。  農業者がリモートセンシングの土壌診断を業者に委託、診断結果に基づいて「新たに」可変施肥機をレンタルし、肥料を自ら散布した場合、土壌診断費(満額)、可変施肥機のレンタル費・燃料費(半額)を支援する。肥料費は支援の対象外で前作で可変施肥機をレンタルしていた場合でも、作物や可変施肥機の種類が違う場合は支援の対象。  また、農業者が50万円未満の土壌診断装置を購入して土壌診断を実施、新たに緑肥栽培を委託した場合、土壌診断の購入費、土壌診断に必要な消耗品費は満額支援、緑肥種子の散布代行費・栽培管理費・すき込み代行費については半額支援を行う。なお、50万円以上の土壌診断装置や緑肥種子代は支援の対象外。

公定規格の改正等 今年2月から改正肥料法の一部施行

   肥料については、2019年の肥料取締法改正に伴い、今年12月1日付で、「公定規格の改正」「表示ルールの見直し」「原料帳簿の備え付け」「虚偽宣伝等の禁止」が施行されている。
【公定規格の改正】改正内容は主に次の7つ。
 ①規格の大くくり化=肥料流通の実態に即して大くくり化し、わかりやすい公定規格とする。
 ②有効期間の見直し=有効期間も見直し、規格を簡素化する③保証可能な主成分の範囲拡大=複数の肥料を混合した肥料、副産物を利用した肥料、有機質肥料など、多様な肥料成分を含んでいる肥料については、肥料の種類によらず含有している肥料成分を保証可能とする。また新たにカルシウム分や硫黄分を保証できるようにする。
 ④主成分の最小量の引き下げ=主成分の含有量自体は高くないが、安価で土づくりにも資する有用な原料の利用をすすめるべく主成分の最小量の引き下げを行う。ただし、原料規格を設定することで肥料としての品質や安全性は確保する⑤原料規格の設定=原料として利用可能なリストを整備し、原料の安全性を確保するとともに、利用可能な原料の範囲を明確化⑥単一化合物肥料規格の見直し⑦科学的知見に基づき汚泥肥料規格を見直し。
 これらの結果、これまで合計169規格あったものを規格の大くくり化で19規格、規格の統合で17規格削減し、新たな単一化合物の創設により5規格増加して計138規格とした。
【原料帳簿の備え付け】生産する肥料について、その原料表示等の表示が適正であることやその肥料に適正な副産原料が使用されていることを業者自身が確認できるとともに、立入検査でこれらの適正性が確保されていることを迅速かつ確実に確認できるよう義務付けられた。対象は①原料、材料、異物を保証票等記載している肥料(堆肥等を含む)②原料規格のある肥料③分析による保証をした指定混合肥料や汚泥肥料等の分析結果、指定混合肥料の品質低下(4週間ルール)の確認結果を記録する必要がある肥料―の3種類で保存期間は2年。記載内容は肥料製品に添付されている保証票の表示根拠となる(原料の種類やその順位等が正しいと判断できる)内容であること。

JA全農 土壌診断基に土づくり

 JA全農は12月2日、土づくり運動の機運向上を目的とした「全国土づくり大会2021」を新横浜プリンスホテルで開催した(既報)。全国の系統組織と全農本所、土づくり肥料協議会などから約200名(オンライン参加含む)が参加。北海道、東北、関東、北陸・東海・近畿、中四国、九州の全国6ブロックから選出された29優良事例で特に優れた6事例を表彰し、効率的な施肥の普及に向けて、土壌診断を起点に健康的な土づくりを実践している事例紹介を通じて交流を図った。 大会の冒頭、今年7月30日に耕種資材部長から常務理事に就任した冨田健司氏が挨拶。令和3肥料は、秋肥に続き春肥も値上げとなる中、全農として安定供給の確保、施肥コスト抑制・農家手取り最大化に向けた取組を強化し、土壌診断を起点に健康的な土づくりと効率施肥の必要性を強調して次のように語った。 「(今回の値上げは)世界的に穀物価格の上昇を背景に、北南米を中心に肥料需要が旺盛なことから、肥料の国際市況が昨年末から大幅に上昇しているのが要因。さらに、現在では尿素、リン安も世界最大の輸出国である中国が国内需要を優先する政策を打ち出しており、世界的に需給への不安が更に高まっている状況にある。また、海上輸送の面でもコロナ禍からの回復需要や検疫強化の影響で、船舶需要が逼迫し、輸送費が上昇するなど混乱が見られている。こういった事態は今後も暫くは続くものと考えられ、全農としては2つの取組を進めている。1つ目は、安定供給の確保。肥料原料市況の更なる高騰や、それによる世界的な需給逼迫のリスクへの備えとして、肥料原料の前倒し輸入を継続するとともに、新たなソースからの輸入を行い、肥料原料が不足するという事態に対応する。2つ目は、施肥コスト抑制・農家手取り最大化に向けた取組の強化。これは低コスト銘柄や手取り最大化メニューを再点検し、地域や生産者ニーズを踏まえた提案により取組みを強化する。具体的には、集中購買の予約積み上げ強化と、銘柄集約の促進、オーダーメードBB肥料の普及、堆肥等の国内地域資源の利活用。土壌診断を起点とした効率的な施肥の普及、それと今回の大会のテーマでもある土づくりの促進となる。本日の大会の目的は、土づくりが健康的な農地土壌の保全を通じて、我が国の食や環境を守り、持続可能な社会づくりに貢献することの意義や、価値を消費者に伝え、生産現場における土づくりへの意欲が更に高まる循環の輪を拡大する契機とすること」。  続いて、農水省農産局農業環境対策課課長の佐藤夏人氏が挨拶し、農業の持続可能性と生産性向上を両立させる「みどりの食料システム戦略」の紹介と、現場での土づくり推進を図るために活用できる交付金の仕組みなどを次のように紹介した。 「みどり戦略の推進において、適正施肥の取組では、新しい制度をつくろうと思っているが、現況においてはすでに改正した肥料取締法をうまく使いながら現場での取組をさらに進めてもらいたい。そうはいっても理念や制度だけでは進まないことは承知している。予算面では、今年の補正予算が閣議決定されたが、土づくりの推進ということで『みどり交付金』を経済対策で新たに措置している。有機農業の推進を市町村ぐるみで行うメニューもあるが、大きな予算を取っているのが土づくり。施肥の軽減にどういう資材が使えるのか。まずは土壌診断を地域や部会単位で行い、それに基づいて新しい資材やスマート農業をいろいろなニーズをうまく組み合わせていくこと。土壌診断を行うための費用を定額で支援したい。今回の表彰事例で基礎となっているのは土壌診断に基づいた栽培暦やカレンダーの見直し。予算をうまく活用しながら現場で土づくりを進めて全国で土づくりが拡大していくことを祈念している」。

もみ殻灰活用の指定混合肥料開発 朝日アグリア

 

肥料メーカーの朝日アグリア(村上政徳社長)は、粒状有機肥料の製造企業としては国内トップクラス。全農と共同開発した堆肥および普通肥料の利点を併せ持つ低コスト肥料(混合堆肥複合肥料)「エコレット」は、播き易く、側条施肥できることから耕種農家から高い評価を獲得しており、急速に普及拡大している。
 また、昨年の肥料法改正で規格が新設された「指定混合肥料」の第一弾商品として上市した水稲向け総合土壌改良資材「稲サポ」と園芸オールインワン肥料「農家想い454」はいずれも牛ふん堆肥入りで使用割合は約30%、約20%(乾物換算値)。ペレット状に粒状加工することで広域流通できる利点があることから、今後の普及拡大が見込まれる。
 さらに、12月1日から肥料原料の公定規格の見直しにより、副産原料の規格が設定され、これまで土壌改良の特殊肥料という扱いだったもみ殻灰や木質灰が指定混合肥料の中で混合して使用できるようになった。今後、各肥料メーカーが副産原料の活用を加速することが予想される。
 こうした中で朝日アグリアでは、もみ殻灰を活用した普通肥料の開発に取り組んでいると聞いて開発担当者に話を聞いた。
 
 もみ殻は国内で年間約200万tが稲作農業から排出されていると推計される。かつては東北エリアなどで転換畑への利用という形で暗渠に活用されてきたという経緯がある。また、2001年に廃棄物処理法が施行される前までは、ごく当たり前に野焼きが行われ、もみ殻は焼却処理するモノだったが、現在では、「燃やせない」「腐らない」と処理に困っている稲作農家も多い。余剰のもみ殻は各自治体とも処理に悩んでおり、産業廃棄物として処理しなければならないケースも見られる。
 一方、もみ殻にはケイ酸成分が多く、効果的に肥料に有効活用するための研究も農研機構を中心に民間企業と連携して進められてきた。課題となったのは、最大限肥料として活用できる可溶性ケイ酸の量を確保できるかどうか。燃焼の条件が悪いと可溶性ケイ酸のレベルが下がってしまう「灰の老化」が起こることが知られている。
 こうした中で高度なコントロール技術で熱処理し、有害物質を排出せず有益な非晶質の可溶性ケイ酸(シリカ)を含む「もみ殻灰」を製造する装置がこのほど富山県射水市のエンジニアリング企業NSIC(関連企業の北陸テクノ)によって開発されたことで、今後は肥料原料としてもみ殻灰が大いに活用されることが期待されている。
 この装置は、経済協力開発機構(OECD)パリ国際会議で発表され、11月24~26日に東京ビッグサイト青海展示場で開催されたアグロ・イノベーション2021の展示コーナーでも模型を展示し、もみ殻の「カーボンレスシリカ灰」を紹介した。現在、この装置で製造した「もみ殻灰」を活用し、JAいみず野(富山県射水市)と朝日アグリアが共同して、製品化に向けた取組を進めている。今後、水稲向け総合土壌改良資材として指定混合肥料登録し、数年かけて生産者の圃場で試験を行う予定だ。P・K・Siの成分比率は7・7・20で暫定的に設計。もみ殻灰は原料中の20%を使用する形で検討。朝日アグリアでは畜産堆肥と配合することを想定している。「もみ殻灰を活用する際に最も重要な点は比重が軽いことをどう解決するか。他の原料と組みわせることで改善することが一番重要な課題」と担当者は締めくくった。
 同社では、リン酸・カリを多く含む鶏ふん灰、カリ成分を多く含む木質灰とともに、天然資源由来の灰の原料活用を積極的に進めて行く考えだ。

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