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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -14- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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混砂から無砂搗きへ 昭和初期から新たな精米

 玄米から糠層を取り除いて精白米を得ることを搗精や精米というが、古くは特殊な砂を混ぜて作業していたらしい。
 1924(大正13)年農事試験場事務功程には「従来精米上混砂搗きの行われたるは、精米機の構造に関係あるかの如く当業者の説明する所なるも、果たしてこれが真理なるや否やを考究し併せて無砂搗きの場合と比較試験せんとす」としてエンゲルベルグ式精米機等について試験し、無砂搗きが可能だと述べている。
 1932(昭和7)年動力精米機比較審査(応募55点、入賞33点、うち、無砂用甲位10、乙位13、混砂用甲位3、乙位5、胚芽米用甲位4、乙位14点)では、応募精米機の搗精型式は円筒式、循環式、臼式、特殊式に分類される。写真の石上式臼型杵搗精米麦機二連座は混砂用部門の乙位に評価された(写真)。
 なお、混砂用では、比較審査時の条件として供試玄米量に対し重量比1%の広島県産石粉(石灰、苦土、炭酸、土砂を含む直径1mm以下)を混ぜている。搗精程度からは混砂搗きの臼式には優の評価は1点もなく、不可に属するものが多かった。それに引き換え円筒式、循環式は優や良の評価で無砂搗きの有利性が認められたとしている。以後、無砂搗き搗精法に焦点が当てられた。
 例えば、1932(昭和7)年の円筒摩擦式、自動循環式、1933(昭和8)年の杵搗式、臼螺旋式も無砂搗きを行い得るとしている。1935(昭和10)年からは基礎的調査も行われ、1937(昭和12)年には横型円筒式、自動循環式、竪型研磨式についての性能比較、1940(昭和15)年には搗精程度、胚芽残存率、品種間差異等も調査している。
 農業技術研究所80年史(昭和49年12月)では「後に当局をして混砂搗を禁止させるに至った業績は特筆に値する」と評価されている。
 1941(昭和16)年同事務功程では戦時体制下で工程の省略を試みている。その目的には「戦時下『ゴム』資材の欠乏により籾摺用『ゴムロール』の製作に支障があるため、その対策として脱稃機の使用を絶対的必要とせる従来の籾摺工程を省き、直接原料籾より精白米とする所謂籾精白工程の適否に関し検討したところ、玄米を搗精するのと遜色ない精白米が得られ、その生成糠も家畜飼料として差し支えないことが確かめられた」と。工程を省いたのは非常時の対応であり、かつ、籾殻には耐摩耗性機器が求められること等から、籾流通に変える程の勢いにはならなかった。
 終戦時頃は石抜機もなく、収穫から調製に至る過程で混入した石の除去が十分ではなかったようで、筆者が子供の頃には、ご飯に石が混ざっていたのを思い出す。現在では異物等の除去技術が進み、安心して食べられている。

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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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