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 >  > 【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐1‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐1‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐1‐ =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=
一部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。
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 週刊新潮が『「食」と「病」、実は「農薬大国」ニッポン』という連載を続けています。3月19日号に掲載された第1回は『「妊婦」「子ども」は避けたい「食品」』という副題で、日本の野菜や果物には農薬が残留していること、日本の残留基準は海外より甘いことを批判し、最後に『日本人は、生まれた時から死ぬまで農薬に汚染され続けている』という恐ろしい文句が書いてありました。
 この記事を読んで、私は「またか」と思いました。それは、記事の多くが科学を無視した間違いであり、読者に誤解を植え付けるもので、これまでによく似た内容を何度も繰り返して掲載しているからです。そんな例として、こんな記述がありました。『最近、環境ホルモン学会や日本毒性学会ではお茶を出されても誰も手を付けなくなった。なぜ?』そして、お茶から農薬が検出されたと記述。これを読んだ人は「専門家は残留農薬が恐ろしいからお茶を飲まない」と思うでしょう。
 実は私は1999年から2001年まで、日本毒性学会の理事長を務めた毒性学の専門家です。その私が「学会で誰もお茶を飲まない」などという話は聞いたことがないのです。毒性学の専門家はお茶の安全性を十分に理解しているので、安心して飲んでいます。
 もう一つ例を挙げると、2018年に『食べてはいけない「国産食品」実名リスト 専門家が危険性を告発!』という連載があったのですが、その中で、食品添加物であるソルビン酸と亜硝酸が体内で反応して発がん性物質になる可能性があると書きました。これを見て怒ったのが、日本の食品安全の司令塔で、私も長年お手伝いをしている内閣府食品安全委員会です。Facebookを使って、「体内でそんなことは起こらない」と反論したのです。

 今回は農薬についての連載で、農業関係者には気になる内容だと思います。そこで、その記事のどこが、どのように間違っているのかについて、専門家の立場から解説することにします。
 記事では、日本の農作物は農薬で汚染されていて、妊婦や子供は避けた方がいいと書いてありますが、日本の食品はそれほど危険なのでしょうか。私は、安全だと思っています。その証拠は厚生労働省の食中毒統計にあります。
 これを見ると、令和元年には約1000件の食中毒が発生し、1万3000人の患者が出て、3人が亡くなっています。 「えっ、そんなに食中毒が出ているの?日本の食品は危険じゃない?」と思うでしょうが、一番多いのはノロウイルスで約7000人、次に食中毒菌で特に生の鶏肉に多いカンピロバクターで約2000人。3位はアニサキス等の魚の寄生虫です。気になるのは3人が亡くなった原因ですが、それは毒キノコや毒魚などの自然毒です。
 それでは、多くの消費者が心配している農薬や添加物は大丈夫なのでしょうか?食中毒統計では「化学物質」による食中毒で、200人以上の患者が出ています。「やはり、農薬や添加物は怖いんだ!」と早合点をしないでください。化学物質というのは「ヒスタミン」のことですが、これは青魚を食べた時に起こる蕁麻疹の原因なのです。ということで、残留農薬や添加物が原因の食中毒は少なくとも平成以後は起こっていません。
 このような事実から、日本の食品の問題は食中毒菌やウイルスの汚染です。これは食品の衛生的な取扱いで防げます。そこで厚生労働省は食品衛生法を改正し、食品関係事業者が食品衛生を徹底するためのHACCP(ハサップ)という制度を義務化しました。これが徹底すれば、食中毒菌やウイルスの食中毒は減り日本の食品はもっと安全になるでしょう。

 これが日本の現状ですが、多くの消費者が心配しているのは食中毒菌やウイルスではありません。残留農薬と添加物です。その理由は週刊誌を見てもインターネットを見ても、農薬や添加物等の化学物質に対する恐怖心を煽るようなニュースが溢れているからです。
 それでは、化学物質はどのくらい怖いのでしょうか?今から500年前にその答えを出したパラケルススというスイスの科学者がいました。彼の答えは「全てのものは毒であり、その毒性は量で決まる」というものです。
 食塩を例に解説しましょう。食塩を一度に200g食べたら死にます。毎日20g食べ続けると高血圧や心臓病になって寿命を縮めます。ということは、食塩は毒と考えなくてはいけません。でも1日に6g以下であれば
一生食べ続けても害はありません。逆に1日に1g以下になると塩分の欠乏で体調を崩します。これが「毒性は量で決まる」ということなのです。
 これは全ての化学物質についてもいえることで、農薬や添加物も大量を一度に飲めば、死ぬこともあります。でも、量を減らしてゆけば、一生食べ続けても何の悪影響もない量があるのです。これを「一日摂取許容量」
と呼んでいます。すべての化学物質の安全性は、量を厳密に守ることで保たれているのです。次回以降で、もう少し、具体的に説明しましょう。

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【唐木英明(からき・ひであき)氏】


 農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。87年東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年名誉教授。現職は公益財団法人食の安全・安心財団理事長、公益財団法人食の新潟国際賞財団選考委員長、内閣府食品安全委員会専門参考人など。
 専門は薬理学、毒性学(化学物質の人体への作用)、食品安全、リスクマネージメント。1997年日本農学賞、読売農学賞を受賞。2011年、ISI World's Most Cited Authorsに選出。2012年御所において両陛下にご進講。この間、倉敷芸術科学大学学長、日本学術会議副会長、日本比較薬理学・毒性学会会長、日本トキシコロジー学会理事長、日本農学アカデミー副会長、原子力安全システム研究所研究企画会議委員などを歴任。

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