新春特別インタビュー 渡邊毅事務次官に聞く
農業を“儲かる産業”に サービス事業体の存在が重要
昨年4月に食料・農業・農村基本計画が閣議決定され、基本法の理念の実現に向けて、新たな農政が動き出した。一方、一昨年から続く米を巡る混乱、否応なく進む担い手の減少・高齢化、高止まりを続ける生産資材等の価格とそれを十分に反映しきれていない農産物価格など対応すべき課題は山積している。今回、新春特別インタビューとして、農林水産省の渡邊毅事務次官に山積する課題への対応や今後の農政の方向性などを聞いた。
――昨年、新たな食料・農業・農村基本計画が閣議決定されました。計画のポイントは。
「一昨年6月に25年ぶりに新たな食料・農業・農村基本法が改正されました。この新基本法の具体化を図るために策定されたのが、今回の基本計画です。改めて基本法の柱を紹介すると、①食料安全保障の確保②環境と調和した農業③農業の生産性・付加価値の向上と農村における地域社会の維持・振興――の3点です。このうち、食料安全保障については、農業生産の増大を基本としつつ、安定的な輸入と備蓄を行うことで確立します。今後人口減が予測されるなか、それに合わせて生産を縮減していては食料安全保障を確保できません。輸出を含めた生産の拡大と生産者の所得向上を図る必要があります。重要なのは『生産基盤』をしっかり維持していくことです」
「『生産基盤』とは、『人』『農地』『技術』『資源』などが挙げられますが、それらについて、それぞれ、具体的な目標(KPI)を定めたのが今回の基本計画の大きな特徴の一つです。例えば、49歳以下の担い手数について現在の水準を維持する、農地の確保については412万haの農地面積を維持する、生産性向上の点では米・麦・大豆の単収を1~2割上昇させる、などです。このKPIについては、定期的に見直し、成果が出ているものについては更に押し上げる、成果が出ていないのであればやり方を変える、といった形で見直しを進めます。これが基本計画の大きなポイントです」
――食料・農業・農村基本法成立後の初動5年間を農業構造転換集中対策期間として取組を強化されていますが、その初年度となる令和7年について。
「担い手を減らさない、農地の集約化、単収を上げるといったソフト面での目標を実現するためには、ハード面での対応が重要となります。例えば農地の大区画化や共同利用施設の再編集約・合理化などです。これについては別枠予算として、今後5年で事業費として2・5兆円(国費で1・3兆円程度)を目指しており、令和7年度補正予算で約2400億円を計上しました。当初予算でもしっかり確保していくことが必要です。また、共同利用施設の再編集約・合理化については、令和7年度予算から取組が始まっていますが、現場からは資材費や人件費の高騰に伴い地元負担を軽減しなければ、再編などが進まないとの声を頂戴しており、令和7年度当初予算では、通常2分の1補助を県が5%、市町村が5%上乗せで補助することで計60%の補助としました。この補助率について、令和8年度予算では、更に地元負担を軽減するため、県・市町村とも8・3%まで引き上げることで、全体で3分の2補助とするとともに、県や市町村が負担する分については、地方財政措置で支援することとしています。これらをもとに共同利用施設の再編などを更に加速させたいと思っています」
――全農が掲げる91農業(自らの生活の1割に農業を入れる)について。
「今回の米を巡る問題でも消費者と生産者の距離が非常に離れてきていることも要因の一つとなっています。そうした点からも消費者が農業生産の現場に参画し、農業を知ることは非常に好ましいこと。ただ、農村の人口が減少していく中、それだけでは上手くいかないと思っています。農林水産省で地域政策として行っているのは、農村と企業を繋ぐということです。日本の企業は高い技術を持っていますが、地域の抱える課題についてはよく知りません。一方、農村の人は企業がどんな技術や能力を持っているか知りません。近年、その両者を繋ぐ存在として貢献する地方銀行が出てきました。農林水産省としては、そうした取組を横展開するため、「『農山漁村』経済・生活環境創生プラットフォーム」を立ち上げており、すでに600以上の企業にご参加いただいています。例えば、日本郵政と地方農政局が協力し、農村の課題を把握した地方農政局が日本郵政の支社に繋ぎ、物流の問題だけでなく郵便局で手助けできないか検討するといった活動も始まっています。これはまだ、一部の農政局管内でしか行われていませんが、全国的に横展開したいと考えています」
――昨年8月から米を巡る混乱が続いていますが、改めて今回の混乱について。
「一昨年8月の南海トラフ地震臨時情報をきっかけに価格が徐々に上昇、4月以降4000円台(精米5㎏)となり、それ以降ずっと高い水準で推移しています。その要因について、政府全体で検証を実施した結果、生産量が減少したのではなく、需要が伸びたことによって需給ギャップが生じてしまったことが要因だとわかりました。ただ、需給ギャップは50万t程度であり、全体の需要約700万tのうち、50万t振れただけでこのような事態となるのは良くないことだと考えています。今回、50万t程度にも関わらずこのような混乱となったのは、一つには農協以外に流れていた部分が全く把握できていない、流通の不透明さ。加えて、当初『生産が足らなかった』との声もあった通り、農林統計に対する信頼性の低下。そして、もう一つは、需給ギャップを埋めるはずの民間在庫がすでに売り先の決まっているものばかりで、需給調整の『バッファ』として機能しなかったこと。以上の3点です」
「こうしたことから、政府では短期的にすべきこと、中長期的にすべきことに分け、昨年11月28日には短期対策をまとめました。具体的には、流通の実態をしっかり把握するということ。もう一つは統計の見直し。将来的には人工衛星やデータを活用し、作付面積や収穫量をより正確に把握できるよう見直します。最後の一つ、備蓄については、民間での備蓄の検討や需給の見通しを幅を持って行うこととしています」
「中長期的には、令和9年度からの水田政策の見直しの議論をしっかりやっていくということになります。その方向性については、基本計画でも書き込まれていますが、一つは作物ごとの生産性向上の取組を支援するという方向へ転換します。米については、輸出や米粉など新たな市場開拓を含め需要開拓を進めていきます。更に大区画化やスマート化、青刈りとうもろこしなど国産飼料や麦・大豆の生産性向上などが挙げられており、その具体化を今後進めていきます」
新技術の普及を後押し
――大区画化とも関連することですが、昨年3月末までにまとめられた地域計画では、全国1万9000カ所で策定されていますが、将来の担い手がいない農地が3割程度あるなど課題も多いと思います。今後のブラッシュアップの方向性をどうお考えですか。
「地域計画は簡単に言うと、どの農地を誰が担当するかを決める計画。今回わかったのは10年後の担い手が決まっている農地は面積で1割程度しかなく、3割程度は未定。地域によっては6割にのぼるところもありました。このままにしていては耕す人のいない農地が荒れてしまうのは明らかです。耕す人がいない農地には担い手を位置づけられるよう計画をブラッシュアップしていく必要があります。そのためにはまず用途に応じてエリアを定めるということ(例えば、田畑のブロックを定め、『米を作る』『野菜を作る』など作物や栽培手法に応じたエリアを作るなど)。また、担い手がなかなか見つからないということであれば、新規就農者を呼びこむことになりますが、その際には営農がしやすいよう耕作する農地を団地化することなどが想定されます。いずれにせよ、国の職員もその現場に入ってアドバイスするなど、できる限りの支援をしたいと思います」
――新規就農者を増やしていくために必要なことは。
「まず、基本的には農業が儲かる産業にならなければなりません。そのためには、今頑張っている方が、付加価値の高い商品を作って高く販売する、生産性向上でコストを下げるといった工夫が必要です。儲かる農業に向けては、みんながやらないことでも、ニーズがあるところを狙って生産すると良いのではないでしょうか。例えば、玉ねぎで言うと、加工・業務用は価格が安く敬遠されています。しかし、ある農家の方は加工・業務用に限定して大規模に生産し、皮むきまで行って出荷することで、高単価で儲かる農業を実現されていました。誰もが儲からないと思うところを工夫して専門にやったことで一人勝ちになっています。初めから無理だとか、儲からないと諦めず、ニーズがあるところはどこか、そこで儲けるにはどうしたら良いかをよく研究すれば、それを打破する方法を見つけることができます。需要側がどういうことを求めているかを知ることが大切です」
「また、農地については、新規就農者にとって、所有するという形はハードル、リスクが高すぎます。借りるという形が一番適していると考えており、そのためにも農地中間管理機構(農地バンク)の役割は重要となってきます」
――基幹的農業従事者が20年間で約4分の1にまで減少すると予想されるなか、今後益々少ない人数でより多くの面積に対応しなければならなくなります。そうしたなかで、カギとなるのは、水稲で言えば直播栽培などの栽培技術と、スマート農業技術をはじめ、機械・資材だと考えております。「より省力的な技術」の普及に向けてどのように進めていかれるのでしょうか。また、スマート農業機械を含め、省力的な機械・資材の普及に向け、メーカー及び農業機械販売店など農業機械業界に期待することは。
「省力化に向けては直播に代表されるような省力化に資する農法の採用のほか、省力化機械と機械に合わせた栽培方法をセットにしたスマート農業の2通りに分かれます。前者、農法については直播の他にも近年は再生二期作の取組も始まっています。乾田直播については、技術的には更に難しいものではありますが、節水型乾田直播といった、より省力的な技術も出てきています。そうした新たな技術で省力化を図ってコストを下げていくということは後押ししていきたいと思います」
「もう1点のスマート農業については、法律(スマート農業技術活用促進法)もできたので、それをもとに、まずは機械の研究開発、特に、従来から言われていることですが、果樹や園芸など機械化が遅れている分野について、国が率先して開発を進めていきます。また、その機械を使う人をどうするかもポイント。これまでは農家がやるのが普通でしたが、今後は『サービス事業体』の存在も重要になります。メーカーや販売店自身が、機械の販売だけでなく、作業代行などのサービスを提供する方向へ切り替えることで、農家負担を下げていくことにも期待しています」
「また、もう一点お願いしたいのが農作業安全。依然として機械を巡る事故は多いです。農家の方にしっかりと間違った使い方をしないようにご指導いただきたいと思います。加えて機械メーカーの事故を回避できる技術の開発にも期待しています」。





