【新年トップインタビュー「激動の時代の舵をどう取るか」】クボタ代表取締役副社長執行役員機械事業本部長 花田晋吾氏
2024年の概況
「23年の末頃から全世界的に景気後退に入り、加えて資材価格、人件費など様々なコストが急激に上昇する中での事業運営となった。それに対し、お客様にご迷惑かけないよう配慮しつつ価格改定等も行い、円安による利益の底上げもできたと思うが、逆風を大きく受けた一年だった。その中、グローバル経営を進めるための施策や、成長市場と位置づけたインド、建機事業への取り組みを設備投資も含め着実に進めてきた。海外の地域別の概況では、北米はインフレを沈静化させるための金利政策に伴って市場が冷え込み、農産物価格の下落もあり、投資マインドが低下。欧州は地政学的な政情不安が大きく、エネルギー価格の高騰などにも及んでいる。アジアは気候の悪化等の影響が大きかった。タイなどでは干ばつの解消による販売回復があったが、一部で洪水の影響があった」
国内の状況
「長期トレンドとして農家数が減少。環境は引き続き厳しいが、秋口からの米価の上昇、米の需給が締まるという見通しの中、このままで推移するのなら、持ち直しが期待できる。私たちは〝農業を支える人を支える〟との強い想いで、生産現場の方々が困った時、一番の相談相手になりたいと思っている。その中の一つの取り組みがスマート農業の土台作りであり、各種対応した製品の上市、KSAS、RTK基地局の整備などを行っている。アグリロボの普及は年々進み、ラジコン草刈機なども伸張している。一方、〝続ける農業〟を応援する、安価型の農機もトラクタのSL280/350のスペシャル機やコンバインSコン(ER448NL)を投入し、市場の期待に応え、成果にも繋がった。またアフターマーケットの取込みにも力を入れている」
トータルソリューションの提供
「農家戸数が急激に減少する中で、食料生産をしっかりと支え、如何に農業を成り立たせていくかが大事だと思っている。生産性を機械で補うだけではなく、農村の維持のためのバリューチェーンや、地方の活性化のためにクボタとして何ができるのかを考えトータルソリューションの提供を進めていきたい。様々な取り組みを行っているが、米の輸出による販路拡大や農機シェアリングサービス、J―クレジット支援サービス『大地のいぶき』などに取組んでいる」
新しい顧客接点活動について
「WEBを使いGROUNDBREAKERSや農フェスなどのイベントを行い、農フェスでは見積りキャンペーンも展開した。更に今年はRAKUtA(WEBでのリース申込サービス)を始めた。セールスを介さずとも、WEB上でお客様ご自身で情報検索から申込までできる新たな販売の仕組み作りを狙いとしている。今回はトライアル的にトラクタSL280スペシャル機1機種のリースだけだったが、手応えを感じており、今後機種を拡充し進める」
インド事業の展開
「インド子会社であるエスコーツクボタの狙いは、インド国内で私たちの地盤を強化することと、グローバルでのベーシック市場への足がかりを早急につくること。そのためには品質の圧倒的な向上と生産性の向上が必要で、日本から多くの人員を現地に派遣した。またインドでの販売方法は、ディーラへの卸売りから小売りを重視したお客様との接点を作るものへと舵を切っている。インドでつくった製品の他国への販売は、欧州向けに改良したものの出荷を拡大。元々エスコーツ社の販売網で東南アジアやアフリカに出荷していたが、さらに販売網の整備や製品の検討を進め本格的に進めたい。北米には、展開する機種の検討が必要だ」
カーボンニュートラルの取組み
「大きなテーマとしてEV化に取り組み、既に電動トラクタや電動建機などを上市している。周辺のインフラが整えば、しっかりと製品、サービスを提供できるように準備を進めている。またEVだけでなく、水素エンジンや燃料電池などにもチャレンジし、燃料に関してもバイオ燃料をはじめ代替燃料で使えるエンジンの開発を進めている」
2025年の見通しと展望
「全般的な景気動向については、2024年から大きく好転することは難しいのではないか。ただ、個別に見ると、北米はトランプ政権となり、これからの先行きは不透明だが、景気対策に力を入れるだろうという予測もあり、そうなれば仮に関税が上がっても、それを打ち消すような経済の活況が生まれ、米国市場の好転が期待できる。欧州に関しては急激な好転はないと見ている。中南米では数年前からメキシコを核にして販売やサポートを進めるようになり、良い方向に向かっている。ASEANはタイを中心に伸びてきたが、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどにも、その発展のスピードや求められるアプリケーションを一つ一つ整理しながら、新製品なども投入し、拡販に向けた活動を行っていく」
次期中期計画で目指すもの
「現在の中期計画で掲げた『北米を中心にした建機事業』『インド及びベーシック市場』『ASEAN』『アフターマーケット』の4つの成長ドライバーを継続しながら、機械事業本部が如何に自立的に成長を加速できるかが課題となる。取り組みは様々あり、スマート農機の海外展開や小型建機のスマート化、インドを活用したグローバルなベーシック市場、日本の整備事業を中心とした〝モノ売りからコト売りを中心とした展開〟など。それらを迅速に進めるための方策を考えていく」
激動の時代の舵をどうとるか
「今、国内外含めて本当に大きな変革期にある。その中であっても社内改革、成長が停滞することがあってはならない。例えば、インドでは顧客との接点活動でデジタルの導入が急速に進んでいる。日本はこれに遅れており、これまでの方法の延長は成り立たなくなる。足元も大切だが、2040年ぐらいの先を見て、その時になって良かったと思える取組みをこれからの5年間でしっかり、そして大胆に進めていきたい。我々は、総力をあげ、子供達が、孫達が希望の持てる社会への取り組みをしていくべきだ。日本の潜在力をうまく生かして、もう一度世界の中でのポジションを取り戻したい。食料の安全保障も危うい。耕作放棄地も問題だ。過去には食料が足りなければ買ってくれば良いという風潮があった。しかし、自分たちの力で何とかしなければならない時代が必ずやって来る。それに対して、クボタは核となり課題解決に貢献しなければならない。我々は命を守るプラットフォーマーとしての使命を担っていると思うからだ」。
※本インタビューは昨年12月に行ったものです。