井関農機 2023年12月期連結決算 売上高2.0%増1699億円 国内1130億円、海外568億円

井関農機(冨安司郞社長)は2月14日、2023年12月期決算を発表した。売上高は前期比32億8600万円(2.0%)増の1699億1600万円、うち国内は同4億2200万円(0.4%)増の1130億6000万円、海外は同28億6400万円(5.3%)増の568億5500万円。海外売上比率は33・5%。営業利益は同12億8000万円(36・2%)減の22億5300万円、当期純利益は同40億9000万円(99・3%)減の2900万円。期末配当は1株30円を予定している。
オンラインで開催された決算説明会では、冨安社長が2023年12月期の決算概要及び「プロジェクトZ」の中間報告、また「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の3点について説明した。
2023年12月期業績のポイントを「国内・海外ともに売上高は増収し、国内は部品、修理収入に加えて大型施設の完工もあり、下支えとなった。海外は欧州を中心に増収し、3期連続で過去最高。売上高比率は33・5%になった。引き続き、私たちの成長の源として、力を入れていく」と述べ、メンテナンス収入の増加を生み出した収支構造改革の進展や海外展開の好調継続があったとした。
また利益面では「売上増に伴い、売上総利益が増益となり、価格改定効果が原材料価格高騰影響を上回るなど、単年では高騰分をカバーできた。ただ販管費の増加により営業減益となったが、中期経営計画の目標を『プロジェクトZ』によって推し進める」とし、同社の進む方向を示した。
【2023年12月期連結決算の概要】売上高は前期比32億円(2.0%)増収し、1699億円となった。収益面においては営業利益が同12億8000万円減益の22億5300万円。営業利益率は同1.3%となった。当期純利益は同40億円減益の2900万円となった。
【国内売上高】同4億円増収の1130億6000万円。農機製品(主に自社製品)は同18億円減収。一方で収支構造改革の柱であるメンテナンス収入が伸び、部品が同3億円の増収で160億円、修理収入が同1億円の増収で60億円。また大型施設工事の完工があり、同11億円増収の55億円。その他農業関連は同6億円増収の199億円。
【海外売上高】3期連続で過去最高の売上高を更新し、同28億円増の568億円。北米はコンパクトトラクタ市場の調整局面が継続し減少。欧州においては値上げ後も小売店の需要が堅調に推移したことに加え、前年下期よりISEKIドイツを連結子会社化したことにより増加。アジアは中国向け生産用部品が出荷増も韓国向けの出荷減をカバーできず減少。
【当期売上高の内訳】
《国内》▽整地用機械(トラクタ、乗用管理機等)=220億8300万円(前期比3.6%減)▽栽培用機械(田植機、野菜移植機)=72億3500万円(同8.5%減)▽収穫調製用機械(コンバインなど)=157億4100万円(同2.2%減)▽作業機・補修用部品・修理収入=425億600万円(同1.1%増)▽その他農業関連(施設工事等)=254億9300万円(同7.5%増)。
《海外》▽整地用機械(トラクタ、芝刈機等)=394億100万円(同4.1%減)▽栽培用機械(田植機等)=18億2800万円(同24・6%増)▽収穫調製用機械(コンバイン等)=13億5800万円(同27・3%減)▽作業機・補修用部品・修理収入=63億9800万円(同30・8%増)▽その他農業関連=78億6900万円(同67・9%増)。
【営業利益】価格改定効果が35億円増、原材料価格高騰影響が26億円減。2024年だけを見ると、原材料価格の高騰を価格改定によってカバーすることができた。通算では高騰分が超過している。その他が3億円増、人件費増加が6億円減、その他販管費増加が11億円減。結果、営業利益は22億円で同12億円の減益。為替影響は売上で31億円の増、原価で22億円の減、販管費で6億円の減となり、結果、営業利益に対して3億円の増となった。
【経常利益・当期純利益】経常利益は為替差益による増加はあったものの、金利上昇による有利子負債増に伴う金融費用の増があり、同16億減益の20億円となった。税前利益は、前期に計上した特別利益(ISEKIドイツの連結子会社化、中国東風井関の持ち分比率の変動)の剥落などもあり、同33億円減の19億円となった。親会社株主に帰属する当期純利益は同40億円減の2900万円。
【バランスシート(財政状態の概況)】前期に総資産で2000億円を超え、今回は106億円増の2171億円となった。大きな要因は国内農機製品の売上減少及び、低水準であった欧州向け在庫の積み増しにより、棚卸資産が増加し、同75億円の増となった。負債の部は同87億円増の1428億円。棚卸資産などの運転資金の増加に伴って有利子負債が増加した。純資産の部は同18億円増の742億円。
【有利子負債・自己資本・配当】有利子負債はリース債務71億円、借入金698億円で合わせて769億円。D/Eレシオは1.0倍、自己資本比率は31・9%。棚卸資産増加見合いで有利子負債が増加した。期末配当は予定通りの30円。
【キャッシュ・フロー】営業活動によるキャッシュ・フローは棚卸資産の増加や仕入債務の減少などにより、24億円の支出となった。投資活動によるキャッシュ・フローは主に設備投資による支出により、54億円の支出。財務活動によるキャッシュ・フローは有利子負債の増加などにより、67億円の収入になった。
【2024年の業績見通し】次期の売上高は当期比8400万円増の1700億円を見込んでいる。《国内市場》農業の大規模化やスマート農業化など農業構造の変化が加速している中、これらに対応した商品の増販及び新商品投入効果、価格改定効果などを期待。農機製品は9億円増、作業機は5億円増、部品は3億円増、修理収入は2億円増。これらにより19億円の増収を見込み、1150億円と予想している。
《海外市場の予想》北米は値上げ効果や推進策等により17億円の増収、欧州は好調を維持するも慎重な見立てで12億円の減、アジアは韓国で現地代理店の一時的な在庫調整影響などにより17億円の減。海外売上高全体では18億円の減収を見込み、550億円と予想。
《収益面》価格改定による効果が前期にも増して期待でき売上総利益の増加はあるものの、人件費、販管費の増加により同2億円減少の20億円を見込んでいる。在庫を抑えるための生産調整などが、収益の伸びを抑える要因になる。2023年の営業利益22億円に対し、原材料の価格高騰の影響は8億円減、価格改定効果は33億円増、人件費増加は7億円減、その他の販管費増加は14億円減、その他が6億円減。
経常利益は10億円、親会社株主に帰属する当期純利益は4億円。
業績見通しにおける想定為替レートは、1米ドル=140円、1ユーロ=150円。
【質疑応答】▽開発最適化におけるインドの役割=TAFE社には中型のトラクタ・コンバイン・田植機の技術供与を従前から進めてきたが、これからそのような製品が続々出てくることなり、それらにしっかりと取り組んでいく。またタイにはTAFE社が生産している小型トラクタを畑作用に展開し、順調に伸びているのでここも進める。また製品の供給を受けるだけではなく部品の調達も始まろうとしている。こちらの活用が製品原価低減のポイントに。今後、TAFE社との協力強化は大きなテーマになる。
▽環境分野の取り組みについて=J―クレジットの取り組みではフェイガー社と事業提携している。同社は農業に詳しい経営陣がいて、大きなメリットを感じている。この取り組みではAmoniの水稲生育予測の活用を推奨し、販売店と生産者の繋がりの中で、生産者の収益や環境保全に貢献できると考えている。
【冨安社長の閉会挨拶】私たちは2025年に100周年を迎える。それを土台にして、さらに進んでいくため、ピンチをチャンスと捉え、改革をしっかり進めていく。
プロジェクトZ 短期集中で抜本的構造改革
【「プロジェクトZ」施策について】井関農機は2025年に創業100年を迎え、さらなる100年の土台を作るための意欲的な中期経営計画を進行中だが、その目標を抜本的構造改革をもって推し進めるのが「プロジェクトZ」。2025年に営業利益率5%の目標が立てられているが、2024年は1.2%。売上高に左右されず収益を確実に上げられる筋肉質への体質転換が未達になっている。ただ海外売上高は計画を前倒しで達成している。
その状況を踏まえ、〝短期集中〟〝聖域無き事業構造改革〟でプロジェクトを進める。2027年には営業利益率5%以上、ROE8%以上、DOE2%以上、その上でPBR1倍以上を目指す。また成長戦略セグメントである海外と国内では大型・先端・環境・畑作に経営資源を集中させていく。
全体像としては「生産最適化」「開発最適化」「国内営業深化」の3テーマを軸に短期集中的に施策を実行。まず生産最適化では2024年7月に製造会社(松山・熊本)の経営統合を行い、人的資源や投資・システムを集約し、業務効率化やコスト削減でシナジーを生み出す。
開発の最適化では機種・型式を30%以上削減し、成長戦略へ集中していく。また共通設計、グローバル設計を軸にして利益率の改善を図っていく。目指すのは製品変動費10%以上の削減。
国内営業の深化では来年の1月に広域販売会社を経営統合する。現在、北海道、東北、関東甲信越、関西中部、中四国、九州の6社体制だがそれを一本化する。在庫拠点最適化や物流体制を見直し、物流費の圧縮を行い、人員の成長分野への投入を図っていく。また投資・システムの集約、資源効率化による収益改善を行う。
成長戦略では海外分野でまず欧州に力を入れ、電動等の環境対応商品の拡充、コンシューマー向け商品の拡充を進める。北米ではAGCO社協働によるシェアアップの推進、アジアではインドTAFE社の生産機投入など。国内では統合などにより人的エネルギーを捻出して大規模、畑作や有機農業を中心とした環境保全型の農業に注力していく。北海道などの大型農機市場や畑作酪農地域で培われたノウハウの全国展開や市場拡大地域への人材登用を進める。
マネジメントでは市場・顧客ターゲットごとのビジネスユニット視点を導入し、例えばトラクタビジネスユニットなどを想定し、開発・生産・販売・サービスまで一貫して対応していく。
改革を進めるため、意思決定の迅速化と多様性の観点から取締役体制を見直し、2024年3月より取締役は6名から5名に、社外取締役に女性を2名登用する予定。
PBR改善に向け 資本コスト、株価を意識
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について発表。井関農機のPBRは1倍を下回る水準が継続しており、2023年12月末時点で0・34倍に留まっている。このため、PBRの構成要素であるROEとPERに分解し、それぞれの項目について「同業他社との経年比較」および「同社と接点のある投資家からの意見収集」等を通じ、その要因を整理した。
【ROE】ROEの経年変化から、中期経営計画目標数値である8%に届かず、その要因は、当期純利益率と総資産回転率の低さにあると整理。当期純利益率は製品ごとの利益率や販管費率、総資産回転率は在庫量や設備稼働率などが原因と考える。なお、日頃接点のある機関投資家が把握する株主資本コストの水準は概ね8%程度と認識している。
【PER】PERは、2020年以降10倍に満たず、その要因は、成長性や強み・収益性などの情報開示不足や、計画と実績の乖離などが原因と捉えている。
【PBR改善に向けて】現状分析による課題を踏まえ、「プロジェクトZ」の諸施策を着実に進めることにより、2027年までにPBR1倍以上の実現を目指す。
目指す姿は、連結営業利益率5%以上、ROE8%以上、DOE2%以上でPBR1倍以上。
【改善の方向性】▽収益性改善▽資産効率化▽成長に向けたキャッシュアロケーション▽IR活動・ESG取組み強化。
【改善に向けた施策】▽プロジェクトZの諸施策で抜本的構造改革(生産効率化、開発最適化、国内営業深化)▽成長戦略。
【IR活動・ESG取組み】▽対話・情報開示の拡充、高度化▽ガバナンス体制強化。