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【新春インタビュー「激動の時代の舵をどう取るか」】井関農機 代表取締役社長 冨安司郎氏

【新春インタビュー「激動の時代の舵をどう取るか」】井関農機 代表取締役社長 冨安司郎氏

大規模・先端・有機 食料安全保障の強化支える

 
――創立100周年に向けての中期計画(2021~25年)。その進捗状況は。


「この中期計画は創立100周年までを描くと共に、次の100年に向けての礎づくりと位置付けている。今日まで連綿と受け継いできた〝農家を過酷な労働から解放したい〟という創業の想いを基に、夢ある農業と美しい景観を支える『食と農と大地』のソリューションカンパニーを目指していく。その実現に向けた基本戦略に①ベストソリューションの提供(製品だけでなくモノからコトへ)と、②収益とガバナンス強化による企業価値の向上(売上高に左右されることなく収益を確実に上げられる筋肉質の体質転換)を掲げた」

「基本戦略①については環境保全やスマート農業など構造変化に対応した取り組みを強化しており、着実に成果も上げつつある。②については、残念ながら、満足できる状況には至っていない。そのため、昨年11月に『プロジェクトZ』を立ち上げ、これを中核組織として開発・生産・販売をゼロから見直していく。ここを正念場と捉えて100周年をステップに、次の100年に向けての礎を築いていきたい」

 ――23年の状況。

「国内は米価の下げ止まりが見られたものの、生産資材費の高止まりや猛暑の影響等により厳しい事業環境だった。海外は北米で足踏みも、欧州を中心に売上・収益を伸ばし、中計の目標値である2025年の数値にほぼ到達している。売上高通期予想では、国内は農機製品で前期比減収見込みだが、作業機・部品・整備収入は堅調を維持、施設工事の売上増等により前期比13億円増の1140億円。海外は欧州を中心に通期予想は過去最高だった前年を10億円上回る550億円。海外売上高比率は32・5%になる見込みだ。ただ、為替・ISEKIドイツ連結化による影響も大きい。国内外トータルでは売上はクリア、利益は原材料価格の高騰影響もあり、計画値からビハインドしている」


 ――24年、国内の展開。


「国内で今後注力していくのは大規模・先端・有機。これらを軸に展開していきたい。〝大規模〟対応としては、広域販社単位で大規模生産者向けの展示会や実演会『アグリジャパンフェスタ』を23年から開始し、手応えを感じている。24年も継続して開催する。大型『JAPANシリーズ』、スマート農機、低価格商品、畑作・野菜作分野に注力し、新商品・新サービスの市場投入により、更なる拡販を図る」

「〝先端〟スマート農機は、昨年トラクタ・コンバイン・田植機3機種揃った直進アシストを中核に進めていく。直進アシストは普及段階にあり、更に伸ばせると考えている。可変施肥については、リアルタイム可変施肥に加え、ザルビオ等マップデータ連動対応田植機の2機種を適材適所で、積極的に推進する。その先はロボットだ。これは価格をどこまで下げられるかもカギになるが、商材の拡充も図っていきたい。田植機は当初予想を上回る評判の良さだ。北海道では畑作・管理用の要望もあり、帯広農機展では、TJWのロボットを参考出品した」

「〝有機〟は、みどり戦略では2050年に有機農業100万ha‌25%の目標を掲げるが、その中でアイガモロボは有機農業拡大への先鞭をつけるものに育ってくれていると思う。他社ユーザーからの問い合わせも多く、当社としてはドアノックツールとして活用し関連商材拡販につなげていく。また、中山間地を始めとした小規模農家への取り組みでは、ニーズに合った製品・サポートをいかに提供していくか、農作業安全への取り組みでは昨年発売したBFトラクタにシートベルトリマインダを業界に先駆けて導入した。こうしたところをしっかりと支えるのも井関農機の使命だと思っている」

 ――24年、海外の展開。

「25年以降の道筋をしっかりとつけられるよう、重点施策に取り組んでいく。海外は北米・欧州・アジアの3極でやっていく。欧州は連結子会社化したISEKIフランス(23年は過去最高の売上・利益)、ISEKIドイツとの連携で販売網を強化し引き続き堅調を維持していく。金融政策の変更によるコンシューマー向けビジネスの苦戦は予想されるものの、一方で北米の流通在庫調整はほぼ完了しており、24年は当社の生産出荷が実売レベルまで回復すると考えている」
「アジア(韓国・タイなど)では稲作から畑作へのシフトの動きにも対応を強化していく。特にアセアンはタイの連結販売子会社IST社が中核となる。インドはTAFE社と技術供与に加え、製品や部品の受給といった取り組みも進み始めており、協業を進化させていく」

 ――24年上期新商品。

「国内向けとしては、4~5条のコンバインを居住性・操作性を向上させ、更に収量型も追加しフルモデルチェンジして発売する。また、食の分野では、お米に新たな価値を付加できる精米方式『うまみ精米』を搭載した新型精米機、野菜作では簡易乗用型のジャガイモ植付機も上市する。脱炭素への取り組みも欠かせない。海外向けでは、景観整備向け電動モーアをバイオ燃料も使えるようバージョンアップした。国内では、フェイガー社との業務提携により、カーボンクレジットを活用した温室効果ガス削減の取り組みを推進する」

 ――ESG経営。

「井関グループでは環境保全(E)を重要課題のひとつと位置づけ環境経営を実践。22年5月にはTCFD提言へも賛同表明した。23年には環境中長期目標CO2排出量削減(スコープ1・2)に井関グループ全体で取組み30年に46%削減を設定した。S(社会)では従業員エンゲージメント(きずな)向上に取組み、またガバナンス(G)の充実・強化では、取締役会の実効性評価や社外取締役の活用など積極的に取り組んでいる」

 ――未来に生き残っていく農業経営体、そして農機販売会社とは?

「今春打ち出される食料・農業・農村見本法の見直し方向である食料安全保障強化などの柱に沿った対応が必要だ。大規模化はさらに進み、スマート農機・データを活用したスマート農業の普及・拡大が進む。環境対応の考え方も不可欠になる。中山間地等では地域一体となった有機農業への取り組みや中山間地に向けたスマート農機の展開も考えられる。販売会社や販売店もそうした先端技術に対してのさまざまなサポート・フォローができることが必須になるだろう」
「コロナ禍・ウクライナ侵攻を受け食を支える農業はエッセンシャルビジネスとして重要度が再認識された。井関農機はこれからも日本農業・生産者に寄り添った活動により、社会的責任を果たしてまいりたい」。

 ※本インタビューは昨年12月に行ったものです。

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