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【新春インタビュー「激動の時代の舵をどう取るか」】ヤンマーアグリ 代表取締役社長増田長盛氏

【新春インタビュー「激動の時代の舵をどう取るか」】ヤンマーアグリ 代表取締役社長増田長盛氏

コト売りの世界へ 市場変化の予見が鍵に

 

 ――2023年の概況は。


「22年度第4四半期にあたる1~3月は、新型コロナ感染症の余波が残る中で、人が集まるイベントは自粛。その代替として国内ではデジタルで展示会を行い、スマート農機や新製品など、様々な商品を紹介した。海外は為替の影響もあったが、増収増益となった」

「23年度が4月に始まってすぐの5月には、コロナが感染症5類に移行、以前より活発に活動できるようになった。上半期(4~9月)は概ね計画通りに進んだ。しかし、ロシアのウクライナ侵攻や円安などで原油・資材価格、物流費が高騰し、自助努力では吸収しきれない部分もあり、国内外とも値上げをさせて頂いた。今も資材高騰は収束せず先行き不透明な状況が続いている。また、お客様には今年は天候不順による農作物への影響や、輸入に依存してきた飼料や肥料の高騰がかなりの痛手になっている。特に飼料高騰は畜産農家に大打撃となっている。そうした中、7月には5年ぶりに北海道の帯広市で国際農業機械展が開催され、ヤンマーアグリとしても新商品に加え将来に向けた電動農機の展示も行い、大いに注目を集めた。また、ヤンマー独自の展示実演会も再開し、訪問活動も従来通り実施し、少しずつ流れが変わってきている。また、コロナ禍に開始したヤンマーオンラインエキスポも9月で7回目を迎え延べ約60万人の方に来場いただいた。今後も対面とオンラインの両面で進めていきたい」


「新商品については、農水省が進める〝みどりの食料システム戦略〟に向けて、効率化による作業低減・CO2排出低減や低コスト化を実現する自動運転の〝スマートパイロットシリーズ〟の商品ラインナップの充実を図ってきた。また、少し毛色が違うが、傾斜地でも草刈りができるラジコン草刈機を発売、これも非常に好評だ」


 ――23年度の見込み。


「以上のような状況を踏まえて、23年度(23年4月~24年3月)は、増収減益の見込みである」


 ――海外の状況は。


「海外においても、デジタルツールを用いたSNSを利用して販売やサービス活動を行っている。国によって異なるが、リアルに実演会も行っている。資本提携があり、トラクターの生産で協業しているインドのITL社とはヤンマーが開発したYM3の1機種だけでなく、その上下クラスにも展開を進めている。また、YMトラクタ―と併せてITL社のソリストラクターも、ヤンマーの廉価版として東南アジアを中心に販売している」


 ――為替の影響は。


「ヤンマーは世界最適地生産の方針のもと消費地における生産展開と生産部材の現地調達をグローバルに展開している。日本で生産し輸出しているのは韓国と台湾くらいだ。中国で田植機とコンバイン、タイでトラクタ―を生産している。そのため円安効果はほぼない。一方輸入作業機やジョンディアトラクターは価格が上がり厳しい」


 ――国内の状況・スマート農機の進展は。


「我々も非常に力を入れて取組んでいる。農家数の減少が加速し、1戸当たり経営規模が拡大するため、高性能・大型化の機械、スマート農機に需要が出てくると思う。2023年4~9月の実績ではスマート農機(ロボット・直進アシスト・ドローン・自動操舵等)はシリーズ拡大もあり、台数ベースで前年比123%、金額ベースで133%となっている。GPSよりも高い位置精度を取得できるRTK基地局も地域と共に設置を進めている」


 ――圃場管理システム。


「ヤンマーのスマートアシストリモートは従来通り推進。機械の見守りや機械や乾燥機の稼働情報の見える化、施肥設計などに対応している。また、ザルビオの衛星データを活用した可変施肥にも取組んでいる。アグリノートやフェースファームなど外部支援サービスとも連携している」


 ――密苗については。


「密苗の普及面積は、水稲耕作面積の8%。なんとか10%までもっていきたい。東日本が先行して拡大してきたが、徐々に西日本や九州でも面積が増えてきた。『苗は購入する』という農家さんが多くなっているため、普及面積拡大のボトルネックは苗だ。そのためJAの育苗センターに密苗の生産増をお願いしているところだ」


 ――2024年度(24年4月~25年3月)の展望。


「24年度のヤンマーアグリの業績は売上前年並み、利益は対前年増を見込んでいる。まだ資材高騰や為替の影響が続きそうだ。国内農業は生産資材費高で厳しいものになる。国内売上は前年と同水準を目指す。お客様への経営改善案として、スマート農機(コーン、野菜などの直進アシストトラクタ―、収穫機等も含め)、および密苗を中心にお勧めしていきたい。子実コーン関連では汎用コンバイン、コーンヘッダなどは一昨年辺りから確実に伸びている。コーンなどの濃厚飼料の自給率は13%(2021年)と低く、これに貢献できればと思う。海外についてはトルコ、ブラジルなど新興国の需要開拓で売上高伸長を見込んでいる」


 ――脱炭素の取組み。


「ヤンマーグループとしては、水素発電システムや電動トラクタの開発、水田中干しの延長によるJ―クレジットなど様々な取り組みを行っているが、23年10月から、ヤンマーの有力販売店である西坂農機(滋賀県)で、もみ殻バイオ炭製造装置(ヤンマーES)の実証試験を開始した。これは高温で燃焼させるため有害物質が発生しない機構で特許を取得しているが、そこからとれたバイオ炭は有害物質を一切含まない安全で良質な肥料として活用できる。循環型農業と炭素固定による農業の脱炭素化を実現できるものだ。籾殻を提供してくれた農家にJ―クレジットの収益化も模索しているところだ」


 ――未来に生き残っていく農業経営体、そして農機販売会社とは?


「国内も海外も市場環境が激変していく。その中であっても経営面で収益が取れる企業的な農家は生き残っていけるだろう。だがそうでないお客様もいる。これからは、機械を売るだけではなく、経営面でもサポートできる地域に根差したお店が農業の中で重要な役割を担っていくようになる。そしてそのようなお店をバックで支えるのが我々ヤンマーアグリだ」


 ――今年のキーワード。


「これからは、モノを売るだけではない〝コト売り〟の世界になる。お客様の多岐にわたる課題を解決することに価値を感じ活動する。それが我々の使命だ。これまでは市場変化にスピード感を持って対応することを大事にしてきたが、市場変化のスピードが増すこれからは、変化を予見して動かなければならない。それが事業運営のキーになっていくと思う」。


 ※本インタビューは昨年12月に行ったものです。

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