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ヤマガタデザイン・山中社長に聞く アイガモロボは奇跡 農家所得上げ地方に活力

ヤマガタデザイン・山中社長に聞く アイガモロボは奇跡 農家所得上げ地方に活力
有機米生産拡大の最大のネックとなっている〝除草の重労働〟の課題に対し、『アイガモロボ』というイノベーションを世に送り出して(井関農機から今年1月発売)、いま、スマートオーガニックの旗手として注目を集める、有機米デザイン㈱と、その親会社で『地域の課題を解決するビジネスを作る』を使命に掲げるヤマガタデザイン㈱の山中大介社長。山中社長に、アイガモロボ商品化までのエピソードや有機農業の可能性などを聞いた。

 ――ヤマガタデザインという会社について。
「僕たちヤマガタデザインという会社は、山形県鶴岡市に2014年8月に設立しました。現在約150名の社員がおり、観光・農業・人財・教育の4つのカテゴリーで、ホテル(スイデンテラス)、農業(ヤマガタアグリが生産・販売)、ハード販売(有機米デザインのアイガモロボ)、経営者育成(SEADS)、リクルートメディア(ショウナイズカン)、スクール、省エネ(SORAIソーラー)という8事業を行っています。その根幹にあるのが『地域の課題を解決するビジネスを作る』で、それが我々の会社の使命と思っています」
 ――なぜ、そのビジネスの地に庄内を選んだのですか?
「実は選んだわけではないんです。何かの縁、とでも言うのでしょうか。両親は共に海外志向が強くて、父はMBAを取得し海外各地で仕事をしていましたし、母は20年間、アラスカで暮らしているような人でした。二人とも僕にも海外に行くべきだと言っていましたが、僕は非常にあまのじゃくな性格で、そう言われるほどに、日本という〝課題先進国〟で、それを解決する社会的にインパクトのある事業に取り組んでいきたいと考えていました」
「僕は、前職がデベロッパーで、そこでショッピングセンターを作っていましたが、自分がやりたい事とは違うと、退職を考えた時、お声がけ頂いた企業の中に、鶴岡市に本社を置くスパイバーという会社がありました。ここは、人工クモの糸を作るベンチャー企業で社会的に意義があり、かつエキサイティングな仕事ができると考え、そこに転職しました。そこで初めて庄内に出会い、すごい田舎だなあ、だからこそ魅力的だと思ったんです。スパイバーでの僕の役割は人工合成したクモ糸を使ったビジネスを開発して販売するということだったのですが、まだ研究開発の段階で、先行投資で採用頂いたのですが、業務にかなりの余裕がありました。スパイバーの関山代表に自分にも何か今できることはないかときいたときに、サイエンスパークというスパイバーがあるエリアの21‌haのうち14‌haが未着手だったため、行政からも相談され、その開発検討の手伝いをすることになり、その土地で街づくりをするために作った箱がヤマガタデザインという会社でした」
 ――その14‌haに核として作ったのが、スイデンテラスやSORAIだったんですね。
「その時ヤマガタデザインがミッションとして掲げたのが『地域課題を解決する事業をデザインし子どもたちが生きる未来に自らも希望を持てる社会を実現する』です」
 ――そこからアイガモロボにはどう繋がったのですか?
「僕たちが次に取り組んだのが農業でした。ホテル・スイデンテラスで有機食材を出したいというのが理由の1つ。もう1つは、農業の未来に対して悲観的な意見がとても多く、その気持ちを分かりたいと考えたのがスタートでした。農業の中・大規模化はこれからの必須条件だと思っていたので、ヤマガタデザインアグリという会社を作り、ハウス12棟からスタートしました(現在は51棟)。庄内を有機農業ブランド化するにはある一定の品種が必要だと考え、僕らはベビーリーフ、ミニトマトなど2~3品目に絞り、販路を作って、地域の農家仲間達が有機的な栽培をやってくれたら地域として有機農業が広がると考えました。野菜は30~40品目集まりましたが、どうしても欲しい有機のお米が庄内で不足していました。有機米のネックは除草でした。これが無人化できるロボットがないかと探していたところ、あるイベントで日産の中村に出会い、『このアイガモロボのアプローチは相当面白い!』と思い、すぐにこれを商品化して欲しいと頼みました」
 ――ところが、商品化は考えていないと当初、断られたんですよね。
「中村には、これはボランタリーにやっているだけと言って断られましたが、それでも僕は中村が起業してでも商品化するべきだと言い続け、実証協力も申し出ました。このプロジェクトは2012年くらいから日産自動車のエンジニアを中心にやってきていましたが、熱意にほだされ、そこのメンバーも庄内に遊びに来てくれたりしているうちに、メンバーの1人の、寡黙だが優秀な日産エンジニアの塩路が、ヤマガタデザインに転職してこの開発を続けたいと、突然申し出てくれたんです。これには僕も驚きました。そのすぐ後に発明者の中村も会社を辞め、僕らと一緒に走りはじめたのです」
 ――いくら優れた技術でも商品化となると、大変ですよね。
「有機っていうのは現時点ではニッチなマーケットです。農家が喜んで有機農業に取り組めるサービスを作らなければと、最初からお米の販売まで含めてお手伝いする会社を作ると決めていました。ロボの販売とお米の販売の2つの軸を作る、その方向性で中村と一致し、そこから本格的に商品化に向けて動き出しました」
 ――アイガモロボの開発にはTDKさんの存在が非常に大きかったと聞きました。
「TDKさんとの出会いは僕らにとってターニングポイントでした。僕らは本気で太陽光発電で完全無人化ロボットの実現を目指していましたが、TDKさんと連携して開発したバッテリー充放電のシステムがなければ、今のアイガモロボの完成度はなかったでしょう。アイガモロボの製造は、TDKさんとも関係性の深い横手精工さんで組み立てしています。アイガモロボを作るという夢に、地方の、日本の技術が結集されているのです」
 ――TDKとの出会い。
「創業者の齋藤憲三氏が秋田県にかほ市のご出身で、私が暮らす庄内はそのお隣。TDKさんは世界のマザー工場を秋田に置き、6000人の社員が秋田で働いているのですが、秋田が盛り上がらないと、採用も含めて困る。それで、ヤマガタデザインと連携して秋田も盛り上げていこうと、一緒にアイガモロボの研究開発をやることになったのです。井関さんもですが、TDKさんとも事業資本提携の関係です」
 ――井関農機さんとは。
「井関さんとは、夢総研の川島副部長さんが中村の幼馴染という縁で、実証試験を一緒にやるところからスタートしました。マーケティング・販売面でも強力にバックアップしてくれています。なぜ、井関さんかというと、僕らは井関農機さんの考え方が大好きだからです。井関さんの経営陣と僕らの考え方には多くの共通点があります。1つは有機農業の可能性、もう1つはこのロボを可能な限り、農家に安価に届けていくこと。それによって農家が有機農業の面積を広げ、その有機米をうちが取扱い販売する。そして儲けてもらう。僕らが井関さんと経営レベルで合意し、何を一番大切にするかというと、まず、農家を儲けさせる。そこを主軸に事業資本提携に至りました」
 ――有機農業の可能性。
「有機農業によって、日本はプレミアムな農産物の輸出大国になれると思っています。日本の最大の資源は水です。世界は人口増で益々胃袋が大きくなっていきます。それを賄うことも必要です。ただそのような必需品としての農業は、海外から鉱物資源を買ってきている日本には分が悪い。一方で、欧米はグリーンマーケット志向で、有機農業がスタンダードになっていきます。僕は日本全体で有機戦略をとるべきだと考えています。有機では生産性が下がり、食料安全保障上問題だという人もいますが、そもそも化学肥料は99%輸入です。食料安全保障の観点では、有機農業の技術を磨くことも必須です」
 ――プレミアムな農作物を買えない人も多いのでは。
「現時点ではそうかもしれません。だからこそ、日本人の所得はもっと上がらなければならない。農家の所得が上がれば地方が潤い、活気も生まれ、それが波及していくと思います」
 ――有機農業の未来。
「有機の農作物の市場自体は急成長します。今全世界で1300億USドルの市場があり、年平均10%で伸びています。国内も加工まで含めて約2200億円の市場があり、これも年平均4~5%伸びています。ただ日本の場合0.3%の農地しか有機化されていません。有機が売れないから作らないのか、作れていないから市場が顕在化していないのか…?僕は圧倒的に後者だと思っています。先進国には、約7%の有機の市場が存在しています。日本も先進国なら、その7%を顕在化させていけば、国内市場で1兆円程度が見込まれます。加えて、海外が有機農業を求め続けるということです。欧州が先導したルールの中で、メイドインジャパンかつオーガニックが輸出の大前提になっていくでしょう。そこに対し日本は先手を打っていくべきと思います」

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