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激甚化する災害から生命・財産を守る 国土強靭化を加速

水田の貯留機能向上を図る(写真はイメージ)

国土強靭化を加速 重点的・集中的対策推進

 災害列島と呼ばれるわが国において、激甚化する災害から生命・財産を守るためには、公助だけではなく、自らが備える自助も重要となってくる。公助としては、防災・減災に資する国土強靭化基本法に基づき、平成26年6月に国の他の計画等の指針となる「国土強靭化基本計画」を策定し、政府一丸となって取組を推進。更に、気象災害が激甚化・頻発化するなか、取組の加速化・深化を図るため、令和2年12月に「防災・減災、国土強靭化のための5カ年加速化対策」を定めた。

 わが国は、これまで様々な大規模自然災害を経験してきた。更に、近年は気候変動の影響により気象災害は激甚化・頻発化し、南海トラフ地震等の大規模地震は切迫。また、高度成長期以降に集中的に整備されたインフラが今後一斉に老朽化するため、適切な対応をしなければ負担の増大のみならず、社会経済システムが機能不全に陥るおそれもある。
 そのようななか、国民の生命・財産を守り、社会の重要な機能を維持するため、防災・減災、国土強靭化の取組の加速化・深化が必要。また、国土強靭化の施策を効率的に進めるためにはデジタル技術の活用等も不可欠になってくる。
 このため、「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」では、①激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策②予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策の加速③国土強靭化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進―の各分野について、更なる加速化・深化を目指し、令和3年度から令和7年度までの5カ年に追加的に必要となる事業規模を定め、重点的・集中的に対策を講じていく。
 取組む対策数は123対策で、必要となる事業規模はおおむね15兆円程度。このうち、①は78対策で12兆3000億円程度、②は21対策で2兆7000億円程度、③は24対策で2000億円程度としている。
 具体的に農林業関連についてみると、①では、「人命・財産の被害を防止・最小化するための対策」として、流域治水対策(河川、農業水利施設等の整備、水田の貯留機能向上及び国有地を活用した遊水地・貯留施設の整備加速)、防災重点農業用ため池の防災・減災対策、山地災害危険地区等における治山対策や森林整備対策などを推進。また、「国民経済・生活を支えるための対策」としては、園芸産地事業継続対策に取組む。
 ②では、人命を守り、必要な行政・社会経済システムが機能不全に陥らないようにしつつ、中長期的なトータルコストの縮減等を図るため、早期に対策が必要な施設の修繕を集中的に実施し、予防保全型のインフラメンテナンスへ転換を図る。農業関連では、農業水利施設等の老朽化、豪雨・地震対策に取組む。
 ③では、国土強靭化に関する施策をより効率的に進めるため、施策のデジタル化を推進するとともに、災害関連情報の予測、集積・伝達の高度化を図る。具体的には、線状降水帯の予測精度向上等の防災気象情報の高度化対策、高精度予測情報等を通じた気候変動対策などに取組む。
 また、対策の実施に当たっては、地域における公共投資が円滑に実施されるよう、公共事業等に伴う地方公共団体の追加負担の軽減を図るための措置を講じる。

非常用電源導入等 停電時の被害防止を支援

 国土強靭化の取組を進める政府は、令和4年度第2次補正予算において、国土強靭化関係予算に国費1兆8925億円(事業費2兆9050億円)を計上した。
 このうち、「5か年加速化対策(加速化・深化分)」は国費1兆5341億円(事業費2兆3707億円)で、府省庁別にみると、農水省は1529億9000万円。流域治水対策(農業水利施設の整備、水田の貯留機能向上)、ため池の防災工事等の推進、山地災害危険地区等における治山対策・森林整備対策、園芸産地事業継続対策、農業水利施設等の老朽化対策や豪雨・地震対策を進める。
 主な施策をみると、「水利施設整備事業(公共)」に627億1700万円の内数を計上。農業水利施設の更新・長寿命化対策や集約・再編を実施する。また、田んぼダムに取組む地域において基幹から末端までの施設を一体的に整備。更に、小水力発電施設の導入や用排水機の省エネ化等を加速して推進する。
 また、「園芸産地における事業継続化対策」には2億6000万円を計上。自然災害発生に予め備え、災害に強い産地を形成するため、園芸産地における非常時の対応能力向上に向けた複数農業者による事業継続計画(BCP)の策定を支援する。また、BCPの実行に必要な体制整備や、実践に必要な自力施工等の技能習得などの取組を支援。更に、停電時の被害防止に必要な非常用電源や大雪によるハウス倒壊を防ぐ融雪装置等の導入を支援する。
 一方、令和5年度予算において、政府は国土強靭化関係予算に4兆7454億円を計上。府省庁別にみると、農水省は5746億3100万円。
 主な施策をみると、「農業水路等長寿命化・防災減災事業」に281億5000万円を計上。機能診断・機能保全計画に基づいた農業水利施設のきめ細かな長寿命化対策を支援する。また、災害の未然防止に必要な施設整備、リスク管理のための観測機器の設置、農業水利施設の撤去、ため池の廃止等の防災減災対策を支援。更に、ため池のハザードマップ作成、監視・管理に必要な研修の開催、管理者への指導・助言等の経費を支援する。
 「多面的機能支払交付金」には486億5200万円を計上。このうち、農地維持支払では地域資源の基礎的保全活動等の多面的機能を支える共同活動、資源向上支払では施設の長寿命化のための活動等を支援する。
 一方、農水省以外の令和5年度予算をみると、経産省は「防災・減災、国土強靭化の推進」に130億円を計上。激甚化する災害に備えるため、社会的重要インフラへの燃料タンクや自家発電設備等の導入を支援する。



自然災害に備えを 高まる発電機への期待

  日本は、以前から自然災害の多い地域だが、それが近年ますます顕著になってきており、自然災害に対する備えも農業にとって重要なテーマとなり、発電機への期待が高まっている。  昨年の自然災害に関してみてみると、地震では、日向灘を震源とする地震(1月22日、最大震度5強大分県大分市など)、福島県沖を震源とする地震(3月16日、最大震度6強宮城県登米市など)、茨城県沖を震源とする地震(5月22日、最大震度5弱福島県いわき市)、大隅半島東方沖を震源とする地震(10月2日、最大震度5弱宮崎県日南市)などがある。東日本大震災の衝撃に比較するとそれほどではないが、その地域に暮らす人々にとっては、日常生活に影響が及ぶ相当不安なレベルの地震も発生していた。  豪雨に関しては、7月14日からの大雨(宮城県など全国で住家被害が1914棟)、8月3日からの大雨及び台風第8号(死者2人、青森県、山形県、新潟県、石川県など全国で住家被害が7286棟)などがあり、農業や生活に大きな影響が及ぼされた。  このような状況下、「50年に1度」という災害も起き、強靭な国土、地域を作らなければならないという国民の意識が高まってきているのは確実である。  これらの自然災害は、家屋や人命などに大きなダメージを与えるとともに、園芸用ハウス、畜舎といった農業の基盤とも言える施設へも壊滅的なダメージを与えている。  地震や豪雨といった自然災害により停電が発生した場合には、園芸用ハウスでは窓の開閉ができない、灌水ができない、ポンプが動かせないなどの被害が発生することがあり、出荷保冷用の冷蔵庫が動かせないことで、農産物が被害を受けることも少なくない。  一方、畜産、酪農の場合は、24時間体制で搾乳しているところもあり、電気が途絶えるのは、搾乳などの作業ができなくなったり、生乳を一時的に保冷することができなくなったりするため、自然災害は農業経営の大きな障害となっている。  農業分野で、そういう自然災害への対策がはっきりと表れてきたのは、東日本大震災がきっかけ。停電による影響が深刻ということで、発電機の導入を中心に防災への準備が進むことになった。  特に、北海道の畜産・酪農分野では、道内全域で大規模な停電が発生した「平成30年北海道胆振東部地震」を契機として、発電機を利用して自然災害に見舞われた時でも営農を継続できる体制が確立されてきた。  北海道の十勝地域では、2020年に調べたところ、災害用自家発電機の導入が8割以上になっているという報告もあり、発電機を保有している酪農家の数が増えていることは間違いなさそうである。最近では、鹿児島県での普及が進んできたという声も聞かれ、千葉県でも引合いが増えているという。  日本及びその周辺では、世界で起こっている地震の約十分の一にあたる数の地震が発生し、現在、日本では2000以上もの活断層が見つかっていると言われている。  また、昨年9月の台風第15号では、静岡県内で最大約12万戸の停電が発生し、一部の地域は停電が長時間継続してしまった。  そういった状況下、搾った生乳の冷却は不可欠であり、搾乳しなければ牛に乳房炎が発生することから、必要な電気の確保は、酪農・畜産経営を中心に施設園芸経営などを左右する大きな要因と言える。



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