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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -13- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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地方農家の助けに 賃料得て籾すりした時代

 籾乾燥の終了時を判断する含水率測定手法について、1943(昭和18)年までの農事試験場事務功程に課題化されたものは残されていない。昭和6年穀物簡易火力乾燥器懸賞募集にも含水率測定方法に関する記述はないが、昭和8年穀物簡易火力乾燥室の設計懸賞募集では入賞した機種の一つに以下のような判断例が示されている。「生籾の乾燥は30乃至40時間要するも、乾湿両示度の差10℃付近、室含湿60%以下示して大体2時間継続すれば取り出して可なり」と。当時は温湿度測定結果から推定するのが一般的な方法だったと思われる。関東東山農業試験場で1954(昭和29)年に含水率計の研究が課題化されている。その手法は「籾及び玄米堆積中に熱電対を先端に付けた空気吸引用の細いパイプを挿入して空気の温湿度を測り、その温湿度に平衡する水分を求めるもので、定温器法による測定値との差は0.5%以下」ということで精度は高いといえよう。
 1950(昭和25)年代に入ると簡易な電気抵抗式水分計が発売されるが、現場では経験的に籾や玄米を頻繁に歯で噛みその時の砕ける音や感覚で含水率を判断してきた。筆者もその一人である。乾燥不十分で籾水分過多の場合はカビや異臭などを生じ易く、火力乾燥による過乾燥は胴割れを引き起こし籾摺りで砕粒となり易いなど、いずれも品質を損ねるとともに貯蔵性にも問題が生じる。
 乾燥が終了すると出荷前に籾摺作業が必要になるが、籾摺機の発展については第6回目にご紹介した。ここでは写真に示すように畜力牽引式の台車に発動機、籾摺部、唐箕、昇降機、万石を載せて農家を巡回し、賃摺と称し賃料を得て籾摺作業をしていた時代があったことを思い出してみよう。
 時期的には籾摺部がロール型と判断されることから1935(昭和10)年動力籾摺選別機比較審査以降と見られる。この種作業車は戦前にも巡回作業していたかもしれないが、この写真は戦後関東東山農業試験場時代に分類されたものから見つかったことを考慮すると、戦後、昭和20年代初期と思われる。移動時は昇降機横の万石部を取り外し、荷台の発動機と籾摺部の間にうまく収めている。また、昇降機の高さは門等を自由にくぐり得るよう籾摺部ホッパーの高さまで下げられるよう設計されている。煩雑な据付・撤去作業の手数を省き作業性能も良い籾摺作業車の出現は、地方の原動機や調製機器を有しない小規模農家にとって巡回が待たれたものと思われる(写真)。
 筆者は子供の頃賃摺業者の発動機の音を頼りに近所の子らと遠巻きに見ていたのを思い出す。籾重量の2割を占める籾殻は、当時、農家の竈の貴重な燃料であったが、現在でも一部で籾殻竈として使われているようだ。

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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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