【新春トップインタビュー「激動の時代の舵をどう取るか」】井関農機 代表取締役社長冨安司郎氏
創立100周年。 新年の抱負を
「井関農機は〝農家を過酷な労働から解放したい〟という創業者の想いから始まった。〝お客様の課題を解決する〟という精神が私達の根底にあり続けたことが、100年もの間、事業を継続できた最大の要因と考えている。守るべきものを守り続けるために、私達は変わらなければならない。そのような想いから『変革』を掲げ、『新生ISEKI』に向けて取り組んでいる。2025年1月に国内販売会社『ISEKI Japan』を設立する。24年7月には松山と熊本の製造所を経営統合させ『ISEKI M&D』を設立しており、25年は生販通し新体制のもとグループ一丸となり、「次の100年」への礎作りの年となる。100周年のスローガンで掲げている『Your essential partner』として、これまでの100年、この先の100年も、かけがえのない存在でありたい。どんな時代であっても、豊かな社会の実現に向けて農業や景観整備事業の果たす役割は大きい。常識に捉われず挑戦し続けていきたい」
2024年を振り返って
「厳しい環境と闘いながらも、聖域なき構造改革「プロジェクトZ」に全力投入した一年だった。国内ではコメの民間在庫の逼迫を背景に、年央以来、米価が上昇し、担い手層向け大型農機を中心に需要が回復した。改正された「食料・農業・農村基本法」では、食料安全保障が基本理念の柱として打ち出され、農業の生産性向上に向けた「スマート農業技術活用促進法」も制定された。この動きにより、農業の構造転換が更に加速していくと予想されるが、我々が「プロジェクトZ」で国内の成長分野とみている大型・先端・畑作・環境が農政と合致していると自信を深めた。海外は北米・アセアンが軟調に推移するも、それらを払拭したのが欧州だ。欧州経済はさほど強くなかったが、フランスをはじめとする販売子会社が健闘した。改めて欧州における当社ブランド力の強さを感じた。海外は21年頃から急速に伸長した。その勢いはグループ全体を牽引し、伸ばしたい成長分野を伸ばせた年だった」
「プロジェクトZ」 施策のポイント
「筋肉質な企業に体質転換する。設計・製造・販売・サービスなど各ステージで取組みを抜本的に見直す〝創造的変革〟だ。井関グループの在り方をゼロ(ZERO)から見直す。「プロジェクトZ」施策のポイントは①抜本的構造改革(生産最適化・開発最適化・国内営業深化を軸に推進)②成長戦略(選択と集中を進化させ、国内外の成長市場へのリソース集中を推進)③グループ力の最大化(組織再編と人員構成最適化、将来人材へのエンゲージメント向上と成長に必要な人材確保)の3つ。24~25年の2年間、短期集中で取組むべき、抜本的構造改革の生産最適化・開発最適化・国内営業の深化の3施策は順調に進んでいる。完遂時期を27年としたが、この2年間での取組みがキーになる。この「プロジェクトZ」でISEKIは変わる。不退転の決意で取り組んでいる」
生産の最適化
「製品組み立て拠点の集約を行い生産性の向上・効率化・平準化を図る。24年7月に井関松山製造所と井関熊本製造所を経営統合(『ISEKI M&D』)。熊本のコンバイン生産も26年初を目途に松山に移管するが、現状準備は順調。新潟へ油圧機器等の部品生産を集約後、田植機の組み立てを松山に移管。時間をかけて行う大プロジェクトだが、次の100年の礎となる重要な取組みだ。更に製造コストの低いPT.井関インドネシアへの生産シフトやその他の可能性を探っていく」
開発の最適化
「製品変動費10%削減を図るべく、短期集中的に注力しているものだが、効果は25年後半以降に現れてくる。機種・型式の30%削減は目途が立ち、一部は実行フェーズに移行した。部品の共用化や見直し、グローバル設計といった開発手法の変革と併せ、製品利益率の改善を図る。開発の効率化を推進し、成長テーマへの開発リソースのシフトを進めていく。加えて、生産最適化との相乗効果も生み出す」
国内営業の深化
「25年1月に国内販売会社7社を経営統合し、ISEKI Japanを設立。経営資源の集中・再配分による経営効率の向上、在庫拠点・運用の最適化、物流体制見直しによる物流費の圧縮を図るとともに、成長戦略への基盤を構築する」
〝成長戦略〟の進 捗状況
「海外は、欧州・北米・アジアの3極で事業拡大を図り、30年に売上高を現在の1.5倍の800億円まで拡大させる。欧州・北米市場を中心としたNon―Agri製品を成長戦略の重要なセグメントと位置付けている。中でも欧州では当社の景観整備商品に強みがあり、環境対応型製品の拡充も含め、更なる商品競争力の強化を図っていく。地域戦略として、好調なISEKIフランス・ドイツに加え、イギリスの販売代理店プレミアム・ターフ・ケア(PTC)社を連結子会社化し、欧州市場の次なる成長ステージを目指す。北米では、OEM先でもあるAGCO社との連携を一層強化し、新商品の投入による拡販と併せシェア拡大を目指す。国内は大型・先端・畑作・環境に注力する。当社の強みである人的ノウハウ・大型輸入作業機・環境技術を増幅させながら、大規模農家への提案力の強化やノウハウの共有化を進め〝コトへの展開〟で農業の生産性向上へ価値あるソリューションを提案していく。ISEKI Japanに「大規模企画室」を新設し、人材育成に加え、担い手・企業向けB2Bビジネスにも着手する。大型・先端・畑作に関しては国内最大クラス123馬力の有人監視型ロボットトラクタを24年4月に発売。畑作の管理作業に適した商品だ。環境・先端では〝使いやすく、お求めやすく〟レベルアップした新型アイガモロボを投入。またリアルタイムやザルビオⓇフィールドマネージャー等のマップ連動など可変施肥技術を搭載した商品のラインナップを拡充してきた。施肥マップ対応の国産の農業用ドローンやトラクタ作業機の取扱いを新たに開始する」
「プロジェクトZ」 完遂のための人材戦略
「「プロジェクトZ」の完遂のためには、従業員一人ひとりが主体的に取り組んでいくことが欠かせない。変革をリードできる人材がカギとなる。多様なバックグラウンドを持つ従業員一人ひとりの能力を向上させていくことでグループ力の最大化を目指す。組織再編と人材構成の最適化を進めると同時に多様な人材の登用など人的資本投資によるエンゲージメント向上と必要な人材の確保に努める」
※本インタビューは昨年12月に行ったものです。