国産野菜のシェア奪還へ 高まる業務用需要 国内対応の強化が必要

野菜は、わが国の農業総産出額の4分の1程度を占めており、国民の健康の維持増進や農業振興のうえでも重要な作物。その需要は家計消費用から加工・業務用に徐々にシフトし、近年では加工・業務用が全体の過半を占める。一方で、家計消費用はほぼ全量が国産であるのに対し、加工・業務用の国産割合は現在7割程度で推移。世界的な人口の増加、気候変動に伴う生産の不安定化、物流の混乱等が顕在化するなか、加工・業務用の国産シェアを伸ばすことが求められている。
わが国の野菜を巡る情勢について、農水省の統計などからみると、全国の野菜の販売農家数は、令和2年で27万戸と5年前に比べ約3割減少している。また、作付面積も約40万haと微減。そのようななか、生産量は、生産性向上に資する資機材や生産者の高い技術などにより、約1140万tと横ばい傾向で推移している。
また、野菜の需要は、家計消費用から加工・業務用へと徐々にシフト。令和2年は加工・業務用が全体の56%と過半を占めている。一方、国産割合についてみると、家計消費用が97%であるのに対し、加工・業務用は68%で、輸入が3割程度で推移している。
輸入の割合が高い加工・業務用野菜だが、食品製造業者等への意向調査では、国産の利用を増やしていきたい実需者が約3~5割存在。また、世界的な人口増加、気候変動に伴う生産の不安定化、物流の混乱が顕在化していることから、国産の供給拡大が求められている。農水省でも、「加工・業務用野菜の国産シェア奪還」など各種事業において、産地形成等の取組を支援している。
このようななか、野菜流通カット協議会では、農水省の令和4年度「水田農業高収益作物導入推進事業(全国推進)」により、消費者・実需者ともにニーズの高い冷凍野菜について、冷凍食品用に野菜を原料として使用する、もしくは使用していると思われる事業者・企業等を対象にアンケートを実施した。
その報告書によると、今後の製造・販売意向については、「拡大していきたい」が43・5%で最も多く、次いで「現状を維持したい」が36・5%、「縮小(停止)したい」が1・2%。今後取扱いを増やしたい国産原料の品目(複数回答)については、「ばれいしょ」「ほうれんそう」「えだまめ」が各13・5%で最も多くなっている。
また、同協議会では、令和3年度の同事業において「主要野菜の品目別用途別需要量等調査」を実施。調査結果の分析にあたっては、石川県立大学生物資源環境学部食品科学科の小林茂典教授が用途別需要割合(量)を推計した。
それによると、令和2年度の主要野菜(13品目計)の用途別需要の推計結果は、家計消費用が平成27年度比1ポイント増の44%、加工・業務用が同1ポイント減の56%。加工・業務用需要の減少について、小林教授は「コロナ禍において、特に外食需要の減少が大きく影響している一方、カット野菜等の加工原料需要が増加したことにより、加工・業務用需要全体としての減少は小幅にとどまった」としている。
また、食の外部化が進行しており、今後も、サラダ等の惣菜やカット野菜等の即食生食品のほか、冷凍野菜、冷凍調理食品等の時短食材の利用の増加が見込まれ、これに対応した加工原料需要の増加は継続すると指摘。「このため、こうした需要への国内対応の強化が必要」としている。
機械化で省力化と規模拡大
野菜流通カット協議会は、令和4年度「水田農業高収益作物導入推進事業(全国推進)」において、農水省の園芸作物転換強化事業に取組む実証地区(協議会)の現地ヒアリングを実施した。同事業報告書から、調査内容をみてみたい。
【八幡平地域園芸産地協議会(岩手県)】取組では、ニンニクの作業工程に関わる機械化を進め、生産の省力化によって規模拡大を図るとともに、オリジナル品種によるブランド化を図ることでニンニク産地としての生産・販売力強化を目指す。
マルチ敷設作業では、マルチロータリーを導入し、作業時間が3分の1に短縮された。また、種子選別・植付・覆土の作業では、種子選別機、植付機、覆土調整機を導入。更に、収穫・調製作業では、ロータリーカッター、パワーハーベスター、ルートシェーバーを導入し、作業時間を短縮化した。薬剤散布においてもハイクリブームを導入しており、軽労化と作業時間の短縮に繋がっている。
【丹後地域水田農業活性化協議会(京都府)】対象品目は、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、万願寺とうがらし、エダマメ、タマネギである。事業では、地下水制御システム「FOEAS(フォアス)」導入ほ場において、野菜生産における排水と適期給水の効果を検証。今回視察したS株式会社のFOEAS導入ほ場では、モミサブロー(補助暗渠施工機器)で籾殻を充填材として投入して補助暗渠を施工し、本暗渠への通水性を確保している。
これまで、水田畑での湿害によってキャベツなどでは生育不良に悩まされていたが、FOEASの導入でほ場の排水性が格段に向上し、生育が改善。野菜生産での安定的な収益確保が見込めるようになった。
【㈱JAみえきたアグリ(三重県)】ナバナ生産における機械化作業工程のうち、未確立の播種と収穫の作業について、ナバナの生産に適した作業機の選定を実施した。
その結果、播種機による直播の発芽率は55%~90%以上と、ほ場のコンディションによって差があることから、天候などを考慮したタイミングの見極めが今後の課題。 収穫については、ナバナ用の収穫機がないことから、流用可能な市販の3機種についてナバナ収穫への適用を検証。加工野菜収穫機は比較的問題なく収穫できることが確認された。取組では、直播の導入と収穫作業の機械化により大幅な作業時間の削減が図られている。