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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -15- =元・農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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精米機で麦を精白 昭和初期には製粉機も拡がる

 1934(昭和9)年農事試験場事務功程では各種精米機を用いて予備的に麦類の無砂搗き法による精白を行い、裸麦、皮麦では可能性を認め、小麦では能率も精白程度も低くて課題が残ったという。一方、無砂搗きの精白小麦を押麦に加工すると、容易に炊飯でき食味も比較的良くなる結果が得られたようだ。
 麦類の調製には精白の他にも大麦の芒を除去(脱芒)するのも含まれるが、1935・36(昭和10・11)年の同事務功程では脱芒に精米機を有効活用できることが報告されている。1937(昭和12)、40(昭和15)年に実施された無砂搗きによる竪型研削式精麦機性能試験では、砕麦粒の生成極めて少なく搗精度が比較的均一で、毎分回転数や抵抗を考慮すれば仕上げ麦の形状を円粒、扁平粒、棒状粒の3種類に変えられることが判明し一連の試験を終えている。
 次に製粉機について、1929(昭和4)年に動力製粉機懸賞募集(応募34点、入賞5点)が行われた。その趣旨は「脱穀・調製等の諸作業に関しては相当優良と認めらるもの製作せられ、利用の効果も亦著しきものあるも、小麦、蕎麦その他穀物の製粉作業に関しては人力又は奮式水車に依って作用する石臼、構造上不完全にして能率低き動力製粉機等共同利用に不適当である。優良なる動力製粉機の製作を促しその利用普及を図るは、単に労力を調節し生産能率を増進せしむるのみならず、特に現時農家、共同作業場等に於いて石油発動機、電動機等の余剰動力の利用増進に苦心しつつあるに際し新なる利用の途を講ずることにもなり幾多効果の少なからざる」と記されている。入賞機種の挽砕装置は石臼1、鉄臼2、ロール2、篩別部は揺動2、振動2、回転1台で、製粉の目的を達し得たるもの多しとある。
 4年後の1933(昭和8)年には動力製粉機比較審査(応募26点、入賞15点)が行われ、その緒言には「農家の共同施設にて製粉機を利用するもの急激に増加の趨勢を示し、最近内地農業用として普及せるもの凡7千台に及び小麦の増産に伴い今後益々普及せんとする傾向あり」、現在販売中の製粉機について審査し選択上の指針を得ることだと記し、昭和4年懸賞募集後の普及が著しいことが分かる。甲位入賞5点の挽砕部型式は鉄臼と鉄ロールが各1、円錐鉄臼3、審査概評にみる製粉の品質は全体として鉄ロール、鉄臼型が他の石臼型等に対し優っていたという。
 この判断には挽砕部素材加工の難易もあると思う。また、挽砕前の水分調整は粉の品質を左右する重要な作業であるが水分過多になる傾向にあった。その原因は「製粉歩合を故意に高く見せ掛けんとする誤れる慣習と技術的研究の足らざるによる」と指摘したことで、以降、見直されたと考えている。


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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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