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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -12- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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穀物乾燥機の加熱 複数の乾燥方式が誕生

 1931(昭和6)年穀物簡易火力乾燥器(籾殻・練炭)懸賞募集(応募107点)を例に当時の穀物乾燥技術の状況について述べる。
 火力乾燥では加熱源が重要で「練炭は簡易熱源としてその取扱便利のみならず火力の永続性に富むが故に簡易火力乾燥器用として適当である。籾殻は安価だが燃焼炉次第で甚だしく煙を発する等の欠点がある」と指摘している。加熱方式には蒸気又は燃焼瓦斯(ガス)を熱交換して利用する間接加熱式と燃焼瓦斯を直接穀層に送り込む直接加熱式とがある。当時は直接加熱式が最も多く、火炉の安定した燃焼状況を維持することには難点があったと思われる。
 乾燥方式は穀粒循環式(動力により昇降機等を駆動し穀粒を垂直的もしくは容器内を水平的に循環させて乾燥)、穀層回転式(動力により常時または間欠的に穀層を回転させて乾燥)、穀層静置式(動力は用いず、加熱した空気を送る熱気管と排気管の有無で2種類に分かれ、前者はさらに縦管式、横管式、両者併用式とに、後者は縦層式と横層式とに分かれて乾燥)に分類されている。
 審査の結果、一等賞該当なし、二等賞と三等賞が動力使用の穀粒循環式で各1点、動力不使用は三等賞に穀層静置式5点、穀層回転式1点であった。二等賞の金岡式練炭用乾燥機は穀層中に山形の熱気管と排気管を交互に直交して多数配置した山形多管式と称されるもので、前号の乾燥部の図と同じ。穀粒は乾燥箱内を通過する時に撹拌されるため乾燥ムラも少ない。写真は資料館にある模型で「戦前より1955(昭和30)年ころまで販売されていた日本独特の簡易な乾燥機で、送風機がなく、自然の対流のみによって通風するものの一つ」とあるが、懸賞募集対応の火力乾燥器かどうかは不明である(写真)。
 総括では「穀物乾燥の良否は穀物の取引及び貯蔵と密接なる関係を有し、之が解決は農村振興上極めて重要なる事項に属するを以て出品者各位は今後益々研鑽を重ね一層優良なる簡易火力乾燥器の発明製作に努力せられんことを望んで止まざるなり」と記している。
 2年後の1933(昭和8)年には穀物簡易火力乾燥室の設計懸賞募集(応募149点)が行われている。入賞5点は穀層静置式でいわばカイコ棚状にスノコを多段にして堆積乾燥するもので、循環式が入賞していないのは性能が不安定だったのではないかと思われる。
 なお、これまで懸賞募集と比較審査は対象機種の性能向上に大きな役割を果たしてきたが、当時比較審査用に一定条件下の籾を大量に準備するのは極めて困難で、更に加熱源を含め乾燥性能が未だ安定していなかったため、火力乾燥器の比較審査は想定できなかったのではないかと推察する。

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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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