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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -11- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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穀物乾燥機の始まり 籾殻・練炭、燃焼監視に苦労

 わが国は世界でも珍しい玄米流通の国である。したがって、良玄米のみが出荷される。
 朝露が消えた頃から稲の収穫が始まる。鎌による手刈りや人力式の刈取機を使って刈り取った稲をそのまま地干ししたり、一束分の稲をまとめて稲束毎に架干ししたり、その地域独特の方法により乾燥するがいずれも天日乾燥である。この稔りの秋を実感できる風物詩が最近では探さなければ見ることができなくなったのは寂しい。気象条件や地域によって二週間から一か月ほど干して水分が15%以下になったら脱穀する。大正から昭和初期では圃場から農家の納屋や庭先に稲束を運んでタタキに広げ、連伽の場合は打穀部を廻しながら穂先にたたきつけて脱穀し、千歯扱きの場合は櫛状の歯の間に稲を挟みしごいて脱穀する。足踏式の回転脱穀機の出現が脱穀の作業性を改善し、人力式から動力式へと機械化発展の契機になったと考える。脱穀済みの籾は庭先にムシロを敷きいわゆるムシロ干しで仕上げ乾燥していた。
 常温乾燥・加温乾燥を問わず、穀物を一旦乾燥機に搬入したら乾燥終了まで機外に出さない乾燥方式を回分式という。回分式乾燥機の中には、網(スノコ)上の穀物を動かさずに乾燥する静置式、昇降機やスロワで穀物を常時もしくは間欠的に循環しながら乾燥する循環式がある。静置式の場合、スノコ下から風を送るので、穀物堆積層の上下では乾燥ムラが生じる。これを防ぐため堆積層の上下を混ぜ合わせる天地返しという操作を夜間に2回程度行わねばならない。この作業は芒が顔や首筋に刺さりイガイガチクチクで大変である。循環式の場合は一つの乾燥箱の中に乾燥部と乾燥休止部があり、穀物は循環しているので乾燥ムラは少ない。昭和初期の加温源は籾殻や練炭燃焼炉で、灯油バーナはもっと後になって使われる。したがって燃焼状態の監視労力も大きな負担となっていた。
 1931(昭和6)年農事試験場事務功程によると、「簡易乾燥機の要望が切なるため、簡易乾燥機を考案試製し、研究に着手する」と述べているが、以後、乾燥機に関する記述はない。しかし、穀類火力乾燥装置型式略図(図)は同年に行われた穀物簡易火力乾燥器(籾殻・練炭)の懸賞募集と関係があるように見える。懸賞募集の趣旨には「穀物の乾燥には架乾、筵乾その他の屋外に於ける天日乾燥を概して経済的且つ便利なる方法とすべきも、収穫期に際して降雨多きか又は耕地の排水不良なるか或いは労力不足せるが如き場合に於いて専ら屋外天日乾燥法のみに依頼せんか、穀物の適当なる乾燥を遂ぐること甚だ困難なりとす。而して乾燥不良なる穀物は貯蔵力に乏しく、価格低廉にして農家の経済に不利なるは論を俟たざるなり」と乾燥の重要性を述べている。

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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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