農林業機械・農薬・資材についての動向を紹介する

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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -10- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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人力からヘリまで 戦後に防除機研究が進む

  作物への病害虫の被害を最小限に食い止めるため、症状に合致する登録農薬を散布する。対象農薬が液剤であれば噴霧機、粉剤であれば散粉機、粒剤であれば散粒機、粉剤・粒剤いずれにも対応できる兼用機等に分類される。水稲移植機の場合と同様に、これらの薬剤散布機についても、当時の比較審査や懸賞募集の対象機種とはなっていなかった。研究対象としては、1942・43(昭和17、18)年農事試験場事務功程で初めて噴霧器に関する試験が報告されている。曰く「最近水田に於ける病虫害防除用として棍付噴霧器の考案せられつつあるをもって実用性に関し試験を行い、研究の余地多きことを認めたり」と。背負型人力式散布器による水田除草剤散布中の写真は、戦後の機構改革で関東東山農業試験場に名称変更後の1950(昭和25)年当時のものである。
農事試験場研究史(昭和56年)では防除関連研究室発足に至る歴史的背景について今井正信室長が次のように記している。「従来、防除機械の研究は極めて断片的な、初期の人・動力噴霧機と手動散粉機に関するものが主で、むしろ病害虫研究者の側で評価・改良・指導されることの方が多く、農業機械研究の分野ではまれに純機械的な面からの研究があったのみで、防除機械利用の最終目的である防除効果と機械的諸性能との関連の解明、例えば防除効果からみた防除機の数字的な評価、改良、開発研究が欠けていた。また戦後は防除機以外の農業機械化の進展が目覚ましく、加えて先進諸外国から導入されるおびただしい新防除資材への対応も迫られ、新たに防除機械研究の重要性が着目されるに至ってはじめて、防除機研究を主テーマとする第7研究室が生まれた」と。発足時は動力噴霧機や背負動力散粉機の散布性能試験が行われた。
定置式の動力噴霧機は薬液タンクとポンプのセットが農道にあり、圃場内で散布ノズルを左右に振って進む作業者との間が離れているため、ホースの取り回しに数名を必要とした。背負式動力散粉機では散布道具一式を背負って圃場に入るので1人で散布作業したり、2人一組でお互いに畦畔上を移動しながら畦畔間に渡した多口ホースを用いて散布することもある。1952(昭和27)年には空中散布に用いる散布装置一式を試作し検討した結果「離着陸地と速度、超低空飛行などの関係や、積載能力が小さく、経費も大きいことから、我が国の空中散布にはヘリコプターが適している」と結論している。
 1958(昭和33)年には静電散粉機、スピードスプレーヤに関する試験が行われている。薬剤散布では、いかにドリフト(目的外飛散)を削減できるか、無風に近いタイミングでの散布が必須で、環境問題と隣り合わせの課題も孕む。

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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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