井関農機2026年度上期新商品発表会 農業の生産性向上 国内草刈り市場への取組み
井関農機=冨安司郎社長、愛媛県松山市=は12月11日、同社つくばみらい事業所で、農業の生産性向上と国内草刈り市場への取組みをテーマに2026年度上期新商品発表会を開催。8品目18型式の新商品を発表した。当日は農水省から大臣官房審議官西経子氏始め17名が、またJA全農の榮長悟部長、NTTeドローンテクノロジーの滝澤正宏社長も出席した。
新製品発表会には、役員として冨安司郎代表取締役社長、小田切元代表取締役専務、神野修一取締役常務執行役員、谷一哉取締役常務執行役員、粟野徳之常務執行役員、渡部勉執行役員開発製造本部本部長、石本徳秋執行役員営業本部本部長、木全良彰執行役員海外営業本部本部長、勝野志郎執行役員、川合豊彦顧問、綿谷弘勝顧問の11名が出席した。
開会にあたり冨安社長が挨拶。「井関グループは〝農家を過酷な労働から解放したい〟という創業の思いを綿々と受け継ぎ、活動を続けてきた。我々のミッションにあたる基本理念は『お客様に喜ばれる製品、サービスの提供を通じ、豊かな社会の実現へ貢献する』だ。それを実現するための長期ビジョンとして『食と農と大地のソリューションカンパニー』を掲げている。井関農機は、100年の歴史の中で、技術力を強みに農業の機械化、近代化に向けたソリューションを提供してきた。1926年、全自動籾摺機でスタート。以降、これまで田植機や世界初の自脱型コンバインなど数多くの発明をし、日本農機のスタンダードを創り上げ、機械化の進展、そして農業の生産性向上に貢献してきた。また、海外では、欧州においてディーゼルエンジンの乗用草刈機を最初に投入。現在では、田植えと同時に肥料を施す量を自動で変える可変施肥田植機など、独自性のある商品を世に送り出している」と井関農機について説明。
その後、「機械化による生産性向上(10a当たり投下労働時間が、機械化の進展により1960年に比べ約8分の1まで減少)により、他産業へ労働力をシフト、農家の兼業収入が拡大、豊かな農村、日本の工業化にも貢献してきた」とし、日本の食料安全保障、世界の人口増加食料不足・食料増産の必要性、環境問題を取り上げ、「『農業の生産性向上』がキーポイントとなる。これからも井関農機は、豊かな未来のために社会課題やニーズに対してソリューションを提供していきたい」と述べた。
次に、農水省でみどりの食料システム戦略を担当する大臣官房・西経子氏が挨拶。「井関農機の〝農家を過酷な労働から解放する〟という創業の精神に感銘を受けた。この理念は、人口減少社会や気候変動下で一層重要になってきたと感じる。農業は温室効果ガスの排出源でもある。生産性向上と環境負荷低減を両立するイノベーションが不可欠だ」と述べ、みどりの食料システム戦略を紹介。認定制度や企業連携、スマート農業の推進が地域活性化にもつながるとして、井関農機の日本の未来を切り開く技術開発に大きな期待を示した。また「本日、同行した、若手職員にとって、このようなイノベーションの現場を体験するのは貴重な機会となる」と述べた。
次に取組み説明。
【農業の生産性向上に寄与する国内向け新商品としてフラッグシップコンバインJAPANシリーズ(井関農機・小野里氏】国内の自脱型コンバイン投入から60年。またJAPANシリーズは30年を迎えた。その間貫かれたコンセプトは高精度、高能率、高耐久。初代から高精度な作業を実現するため、ツインエイトスレッシャーや各部にステンレス素材や高耐久な部品を用い、高出力エンジンとの組み合わせで高能率作業を実現、大型市場を牽引してきた。30年の節目の年を記念し、新生JAPANを今回、プレ発表という形で7135と6135を紹介する。JAPANに貫かれた基本コンセプトに今回、作業にゆとりを生む操作性と長時間作業でも快適な居住性を加え、開発を行った。農業就業人口が減少している中、水稲経営規模15ha以上の経営体数はこの15年で2倍以上に増加し、20ha以上の経営耕地面積が過半となった(11月公表の農林業センサス)。担い手農家への農地集積、規模拡大が益々進みコンバイン1台当たりの作業面積、作業時間も増加する。また、後継者不足から農業技術の継承が困難となっており、軽労化や使いやすさの向上が求められている。そこで、今回のモデルチェンジでは、特にこの軽労化、使いやすさに主眼を置いた。軽労化では、FMシリーズで好評のキャビンフレームとパネル類を一体化し機密性を高めた構造を採用、ゴムマウントで操作席全体を支え、現行機に比べ大幅な低振動・低騒音化を図った。次に収量センサー付き型式の追加。こちらは、農業機械技術クラスター事業において、農研機構、宮崎大学、岩手県農研センター、JATAFFと共同研究。長時間作業が増える中、夜間など夜露の降りた条件下の作業も増えてきているが、収量センサーで水分状態を機械が判定し、無理のない車速に制御、誰にでも安心して安定した作業が可能になる。また、エアコン吹き出しの風を利用した保温・保冷は、長時間作業でも快適な温度に飲み物を保つ。さらに、オートエアコンやUSBソケット等、快適に作業するための装備を採用した。また、使いやすさの面では、直進アシストを今回のモデルチェンジでは、6条だけではなく7条刈にも設定した。
【JA全農との取組み(三輪田克志・系統推進部長】2023年にJAグループが、ザルビオやZ―GISを活用した営農支援指導のDXの提案を開始した。それによる農業のスマート化を強化する取り組みに弊社も共感し、ザルビオのマップデータを活用できる機械の商品化を徹底して進めてきた。ザルビオで対応可能な可変施肥機能を2023年に田植機、トラクタで商品化、さらに、各作業機メーカーと協力し、可変施肥の作業機のラインナップを増やしている。その後、営農DXの核となるザルビオの利用者も急激に増え、現在登録者数2万人、登録ほ場24万ha(主食用米の作付面積の約2割)。これを踏まえ、弊社は対応機種の幅をさらに広げていく。従来の施肥量低減だけでなく、新たに農薬散布に対応した開発にも着手している。今回、全農様と2年にわたりテストを共同実施し、アップデートに合わせて農薬量を調整する防除機を商品化した。共同実証試験では約7%農薬散布量を削減。同商品はみどりの投資促進税制も踏まえ、現在申請を上げている。さらに、ほ場の境界線を超えた散布、重複を回避するようGPSの情報からブームが伸縮する機構も入れている。
【追肥及び再生二期作の取組み・JA全農耕種総合対策部技術専任部長・榮長悟氏】全農は2030年に向けてプラスチックに頼らない施肥を掲げているが、現在追肥の大部分がコーティング肥料。しかし追肥はやはりやめるわけにはいかない。ではどうするか。猛暑の中1辺30mにもなるほ場を動散で撒くのか、そうしたことが大きな課題となる。もう1つの課題が可変施肥だ。今の田植機は、ザルビオデータを使って可変施肥ができるので、それをそのまま使えないかと考え、埼玉県幸手市の全農が所有する13haの田で実際に井関さんとやってみた。直線部分は良いが、枕地部分は難しい。次年度は検討した上で進めたい。
次に再生二期作の取りくみ。これについては農研機構からも様々資料が出ているが、概ね汎用コンバインの利用。一般の米農家さんが所有されている自脱型コンバインでちゃんと刈れないものかと、井関さんと共同実証している。品種はZR1。全農と農研機構とで共同開発した業務用米の品種だ。収穫は1回目が8月20日、2回目が11月6日。1回目の高刈りは自脱型コンバインで可能な範囲の30㎝にした。収量は若干減り、2回目は未熟粒が多かった。今回の反省点は、1回目の移植時期が遅すぎたこと。次回は1週間から10日ぐらい早める。井関さん、農家さんのお役に立つことなので、来年以降もぜひご協力をお願いします。
【鳥獣対策ドローン「BB102」・NTTe―Drone Technologyの滝澤正宏社長】NTTグループが製造している国産ドローンに地域総合研究所が開発・製造した、鳥獣が嫌がるレーザーを発光する「クルナレーザー」を搭載した鳥獣害対策ドローン。BBはバード&ビーストの意味。カラスなど鳥での実証では絶大な効果がある。軽量(6.1㎏)コンパクトで女性でも簡単に運べるのも特徴。
【草刈市場の取り組み/その他新商品紹介】次号。
その後、屋外・圃場で実機紹介・実演が行われた。閉会の挨拶は石本本部長。「当社は、様々な開発・試験をJA全農様と行ってきた。こうした生産者目線の開発・実証の取り組みをこれからも続けていきたい。これからも私共は、農業の生産性向上につながる商品の提供や情報発信を続けていく所存だ。引き続き、皆様方にはご支援を賜りたい」などと述べた。





