水稲の収量安定と品質向上に貢献するバイオスティミュラント資材「エヌキャッチ」と「ヒートインパクト」
水稲生産において、収量の安定化と品質向上は重要な課題である。近年は化学肥料の価格高騰や環境負荷低減の要請に加え、気候変動による高温障害や干ばつなど、栽培環境はますます厳しくなっている。こうした状況で注目されているのが、作物の潜在能力を引き出すバイオスティミュラント資材である。本稿では、ファイトクロームが運営する「環境ストレス研究会」の実証で明らかになった「エヌキャッチ」と「ヒートインパクト」の効果について紹介する。
エヌキャッチ ― 田植え前処理で増収
「エヌキャッチ」は、大気中の窒素を植物が利用できる形で供給する微生物資材だ。含有する窒素固定細菌「グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカス(Gd菌)」は自然界に存在する酢酸菌の一種で、サトウキビから分離されたが、イネ科以外の作物とも共生可能である。Gd菌は植物組織内で窒素を固定し、栽培期間を通じてアンモニア態窒素を供給する。植物は光合成産物(糖類)や有機酸をGd菌に供給し、共生関係を築く。興味深いのは、Gd菌の窒素固定能力は植物の窒素摂取状態に依存し、窒素不足時のみ活性化するため、過剰供給の心配がない点である。
使用方法は潅注または葉面散布で、水稲では播種時同時または緑化初期から田植え3日前、本圃では田植えから出穂期までの処理を推奨する。豆類や麦類は3葉期以降、野菜は本葉展開期から8葉期が目安だ。1箱(6.25g)で50aに対応する。
左が無処理区(稲が倒伏)、右がエヌキャッチ区
北海道秩父別町の水稲試験(ゆめぴりか)では、田植え3日前に苗へ処理し、慣行通り栽培した。出穂期の葉色は明らかに濃く推移し、精玄米収量は無処理比で約21%増加、主因は籾数増加であった。玄米中のタンパク質含有率は無処理区と同等で、食味への影響はなかった。全国各地の試験でも、田植え前処理で増収傾向が示され、化学肥料削減にも対応可能と考えられる。
ヒートインパクト ― 高温ストレスに挑む
「ヒートインパクト」は、近年問題となっている高温ストレスに対応するため、微生物代謝物・海藻エキス・アミノ酸を配合した資材である。微生物代謝物は植物防御機構を刺激し、海藻エキスは褐藻類「アスコフィラム・ノドサム」由来でストレス耐性を強化する。アミノ酸は高温時の代謝異常を改善し、リペア効果を発揮する。

葉焼けが一週間で回復 (左が6月5日 右が6月13日)
佐賀県の水稲育苗では、高温・乾燥ストレス後に処理し、1週間で完全回復した。葉焼けが改善されたことから、アミノ酸によるリペア効果が確認された。群馬県館林市の水稲栽培(あさひの夢)では、出穂期にドローンで100ℓ/10a(8倍希釈)を葉面散布し、千粒重が増加、精玄米収量は約13%増加した。玄米の整粒歩合も向上傾向を示し、高温登熟障害を防ぐ効果が認められた。出穂期以降の葉色低下が少なく、光合成能力の高い上位葉が成熟期まで維持されたことが収量増につながったと考えられる。さらに、高温条件下でもデンプン蓄積量が多く、乳白粒や胴割粒の割合が減少した。
今後は水稲以外の畑作物や果樹への適用も視野に入れ、事例を積み重ねていく方針である。高温だけでなく、乾燥や過湿など多様な環境ストレスに対応する製品開発が進められており、気候変動時代の農業においてバイオスティミュラントは重要な役割を担うことになるだろう。





