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みどりの食料システム戦略に貢献する資材①

脱炭素化等を加速 生産性と持続可能性両立へ

 わが国の食料安全保障、農業生産を取り巻く状況は厳しさを増している。年平均気温は右肩上がりに上昇、記録的な豪雨も増加傾向となるなど気候変動はより激しくなっている。加えて、担い手の高齢化・減少も進んでおり、いかに生産性を維持・高めつつ、持続可能性にも配慮するかが、「これからの農業」のカギとなっている。こうしたなか、農水省は生産性の向上と持続可能性を両立させる「みどりの食料システム戦略」を策定、様々な資機材・技術の開発・普及を支援している。

 農水省の「みどりの食料システム戦略」(以下、みどり戦略)は令和3年5月に策定。サブタイトルに「~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~」を掲げており、「持続可能な食料システムの構築に向け、中長期的な観点から調達、生産、加工・流通、消費の各段階の取組とカーボンニュ―トラル等の環境負荷軽減のイノベーションを推進する」こととしている。
 みどり戦略では温室効果ガス削減、環境保全、食品産業、林野、水産の5分野について、合計14のKPIを設定。その達成に向け取組を進めている。具体的な2050年の目標をみてみると、温室効果ガスの削減では、「農林水産業のCO2ゼロエミッション化(燃料燃焼によるCO2排出量)」「農林業機械・漁船の電化・水素化等技術の確立」「化石燃料を使用しない園芸施設への移行」「農山漁村における再エネの導入」、環境保全では「化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減」「化学肥料使用量の30%低減」「耕地面積に占める有機農業の割合25%(100万ha)」などを掲げている。
 なお、農水省がまとめた2021年時点の実績値をみると、農林水産業のCO2ゼロエミッション化については1722万t―CO2(2030年目標1484万t―CO2)、化学農薬使用量は約9%低減(同10%低減)、化学肥料使用量は同6%低減(同20%低減)となっている。
 みどり戦略で掲げた目標の実現に向けて、戦略では、調達、生産、加工・流通、消費の各段階において様々な取組を進めていくこととしている。このうち、「生産」では、スマート技術によるピンポイント農薬散布や病害虫の総合防除の推進、土壌・生育データに基づく施肥管理などの技術を通じ、①高い生産性と両立する持続的生産体系への転換②機械の電化・水素化等資材のグリーン化③地球にやさしいスーパー品種の開発・普及④農地・森林・海洋への炭素の長期・大量貯蔵⑤労働安全性・労働生産性の向上と生産者のすそ野拡大――などに取り組むこととしている。
     ◇
 みどり戦略の目標達成に向けては、様々な資機材や技術が開発・普及に取組まれており、品目や地域など個々の置かれた状況に応じて適切に選択することが必要だ。
 そうした技術や機械の導入推進に向け、法的根拠となるみどりの食料システム法が昨年施行された。
 同法は、環境負荷の低減に取組む者の計画を認定し、税制・融資等の支援措置を講じるもの。
 仕組としては、国がまず基本方針を策定。国の基本方針に基づき、都道府県・市町村が基本計画を策定する(今年3月末時点で全都道府県で策定済み)。それをもとに農業者が化学肥料・化学農薬の低減に関する「環境負荷低減事業活動実施計画等」を作成。その実現のため、基盤確立事業実施計画の認定を受けた機械を導入する際、取得価額の32%の特別償却(建物及びその附属設備並びに構築物の場合16%)を受けることができる。
 基盤確立事業実施計画の認定を受けているのは、色彩選別機や温湯処理装置、堆肥散布機など45事業者(7月20日現在)となっている。

除草機等多彩な技術活かす

 基盤確立事業実施計画の認定を受けていなくてもみどり戦略の実現に有効な資機材は多い。
 例えば、有機農業において大きなネックとなる除草作業を機械により効率化できるラジコン草刈機や各種モアなどの機械類。また、土づくりに欠かせない堆肥をはじめとした様々な有機肥料、緑肥などだ。更にそうした資機材を活用した技術開発も進められている。
 それらの技術については、農水省がまとめた「『みどりの食料システム戦略』技術カタログ」に詳しい。
 カタログは現在Ver.3・0まで更改されており、累計で306件の技術が掲載されている。カタログは現在普及可能な技術と2030年までに利用可能な技術の2種類に分けられており、現在普及可能な技術としては「リンゴ黒星病対策用落葉収集機の開発」や「耐倒伏性品種の根出し種子を用いた水稲無コーティング種子浅層土中播種栽培」「トラクター等農業機械の自動操舵システム」「高機動畦畔草刈機」「高精度施肥が可能な重量計付きブロードキャスタ」などが紹介されている。
 なお、カタログで紹介されている技術について、カタログの作成を担当した農水省大臣官房政策課技術政策室では、「掲載している技術はいずれも比較的導入しやすいもの。今年4月には都道府県段階の計画が全県で策定が終わり、いよいよ実行の段階を迎えている。みどり戦略の実現に向けてカタログを積極的に活用していただければ」としている。
 なお、本紙では、今後もみどり戦略に貢献する資機材について特集として紹介していく。

化学農薬低減に貢献 有機JAS農薬スピノサド

 

 コルテバ・ジャパンの天然物質由来の農薬「スピノサド」の技術情報提供、地域に合った防除体系の実証・提案が今年3月、国が進めるみどりの食料システム戦略において、基盤確立事業実施計画に認定された。
 スピノサドは、約40年前に発見された土壌放線菌が産生する活性物質を由来とした殺虫剤で、有機JAS別表2適合資材に該当する農薬である。慣行栽培はもちろん、特別栽培では使用回数にカウントされず、有機栽培では、農作物の被害が予想される場合に使用できる。
 園芸用殺虫剤としては「スピノエース顆粒水和剤」「スピノエースフロアブル」があり、・チョウ目害虫・アザミウマ類やハモグリバエ類に優れた効果を示す。
 また、水稲育苗箱専用殺虫剤としては「ゼロカウント粒剤」があり、イネドロオイムシ、イネミズゾウムシなど水稲初期害虫に効果を示す。
 1999年に国内で農薬登録を取得して以降、約20年にわたり、普及が進んできた。
 今回の認定に際し、スピノサド剤を担当する同社の水野氏は「スピノサドはこれまで、防除効果の高さが受け入れられ、害虫防除に貢献してきたが、スピノサドが天然物質由来であり、化学農薬低減や有機JAS別表2適合資材の農薬であることを価値と捉えて使用する生産者は限られていた。これを機にもう一度光を当て、新たな価値を生み出していきたい」と期待を示した。
 普及に向けた事業として、東日本・西日本にそれぞれ普及推進チームを設置し、防除体系の実証や推進活動を展開している。そして、本剤の特長を踏まえた各地での活用事例をわかりやすくまとめた資料を作成し、推進活動に活用していく。
 また、農機メーカーの協力のもと、実証試験なども行っている。
 さらに、天然由来の脂肪酸グリセリドとスピノサドを混合した「ダブルシュータ―SE」の普及も目指す。脂肪酸グリセリドは、ハダニ類やコナジラミ類等の微小害虫に防除効果があり、それぞれの単独使用では低活性の害虫も、2つの成分の相乗効果で優れた活性を示す。同社は「ダブルシュータ―SE」で有機JAS認定を申請中だ(2023年7月25日現在)。また、高知県で施設園芸防除の無人・省力化に役立つ「常温煙霧法」への適用拡大に取り組んでいる。有機農業に取り組む生産者の悩みの1つが、生産における人手や手間であり、面積拡大の大きな壁となっており、省力化は喫緊の課題である。常温煙霧法への適用拡大は、化学農薬の削減と施設園芸防除の省力化が期待される。
 また、水野氏に海外におけるスピノサドの状況を聞くと、「環境への関心が高く、取り組みが進んでいる北米・欧州を中心に利用が伸びている。日本でも農薬の再評価制度が始まり、その影響などもカバーしていきたい」と話していた。い

畑から雑草を撲滅 みらくる草刈るチシリーズ

 

 手取り除草の負担軽減や除草剤使用量の削減にと、農業王国・北海道で絶大な支持を得ているのが日農機製工=西原規恭社長、北海道足寄郡足寄町郊南1―13=のカルチベーター『みらくる草刈るチ』シリーズだ。
 株間除草アタッチメント「CMS株間輪」を代表とする豊富なアタッチメントが装着できる上に幅広い作物で使用できることから高い評価を得ている同シリーズ。ラインアップは、豆類などの中耕除草といった軽作業から深耕や培土などの重作業まで1台で何役もこなす「みらくる草刈るチ(NAK)」と、27馬力の小型トラクタから作業ができる「みらくる草刈るチJr.(じゅにあ)(NJK)」。そして、35馬力以上のトラクタであれば深耕や培土などの作業もできる「みらくる草刈るチmid.(みどる)(NMK)」と充実している。近年はこの〝みどる〟が、同シリーズの牽引役を果たしている。
 「みらくる草刈るチmid.」は、フレーム重量・標準装備仕様の価格が名前の通り先の2機種(NAKとNJK)の中間にあたり、5畦規格の「NMK―5」と3畦規格の「同―3」の2型式を用意。深耕爪が使える上、前側の深耕チャックで固定しているスライドシャンク用のブラケットを外せば、「草刈るチJr.」ではできなかった縦爪2本の同時装着が可能で、「みらくる草刈るチ」と同様の培土セッティングが可能。
 また、2020年には「みらくる草刈るチmid.」をベースに1度に8畦処理(畦間は9畦)が可能な「NMK―9」も登場。ほ場面積が大きく4畦処理では間に合わない、という農家から作業能率を飛躍的に向上できると喜ばれている。

温湯で種籾を消毒 温湯処理装置「湯芽工房」

 種子伝染性の病害虫を温湯で消毒し、安心安全な米作りに活用されているのがタイガーカワシマ=川島昭光社長、群馬県邑楽郡板倉町大字籾谷2876=の温湯処理装置「湯芽(ゆめ)工房」だ。
 温湯消毒とは種籾を60℃のお湯に10分浸し、熱の力で消毒する方法。通常、化学農薬などに24時間浸漬させるが、その際の使用農薬成分をゼロ成分に抑えることが可能。それ以外にも有機栽培、特別栽培へ対応が可能で、環境負荷を低減できること、微生物農薬や特定防除資材などと併用することなどの利点を備えている。
 同機は種籾のセットから温湯消毒、冷却まで一連の処理を一台で行える。防除可能な病害虫は苗いもち病、もみ枯細菌病、ばか苗病、イネ芯枯線虫で、個人向け小型機械が累計約1万台、施設用が約250台。施設用についてはバッチ式と連続式を用意しており、近年では農産物の安全意識の高まりから地域で取り組むケースが増え、施設用の温湯処理機の需要が高まっている。
 その中でみどり投資促進税制の対象機種として連続式タイプの「湯芽工房」が認定されており、同タイプでは毎時処理能力400・600・900・1440㎏の4機種をラインアップ。作業者は投入コンベアに種籾をセットするだけで済み、安定した水温で種籾を効率的に消毒。機械による省人化が図れること、施設内の種籾搬送の簡略化も図ることができる。

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