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【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -1- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=

【特別寄稿】農業機械革新の歴史を語る -1- =農研機構革新工学センターシニアアドバイザー 鷹尾宏之進=
 農業を営む上で欠かすことのできない農業機械。時代ごとに現れる様々な課題を解決し、農家の「頼れるパートナー」としてわが国農業の効率化・農産物の高品質化に貢献してきた。そこで、農業機械の開発・改良を進めてきた農研機構革新工学研究センターの鷹尾宏之進シニアアドバイザーにその歴史を解説頂く。本紙では回を分けこれを紹介する。
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 収穫の秋、黄色く稔った稲穂を収穫していくコンバインは力強い。テレビドラマ化された「下町ロケット」では無人で走るトラクタが話題になり、農業に関心を持つ若者も増えたと思われる。
 かつて明治から大正時代の農作業の動力源は人であり牛馬であった。田に這いつくばり、野鍛冶によって改良を重ねた鍬や鋤、鎌を使っていた。このシリーズで紹介する古い写真は、当センターで発見された1925年頃から太平洋戦争が終結する1945年頃までのガラス乾板写真の一部である。500枚程の写真を見て戦中派の筆者には機械の種類や作業など特定できないものが多かった。これらの写真の特定を快く引き受け、多くの時間を割いて貴重な記憶や知見を伝えて下さった高齢OBの協力に感謝したい。なお、特定された写真等は当センターホームページ上で「ガラス乾板で甦る農業機械試験研究デジタルアーカイブス」として収録している。同時に発見された1945年以降とみられる焼付け写真の特定作業についても進めており、いずれご紹介できるだろう。これらの写真は人力式・畜力式から石油発動機や電動機を軸とする動力式へ動き出した一大変革の時代の貴重なものである。
 さて、機械化の歴史を「農林水産省百年史」等によって振り返ってみよう。日本における農具施策の出発点は、1875年の勧業寮農務課樹芸掛から分化した農具掛新設時とされている。その背景には過酷な農作業から農民を少しでも解放するために農具の収集を2回行って模索した時期がある。1872年の国内農具の多様性調査と、1876年の輸入農具の調査である。輸入農具は内藤新宿試験場(1872年設置)、三田農具製作所(1879年設置)等で試用され、実用に適するものは模製または改良製作して各府県等に払い下げられているが、農具模製の狙う重要な目的の一つは農業特産物の伸張を促すことであると記されている。
 これは重要な視点であり、1970年代後半に耕耘から移植、中耕除草、防除、収穫、乾燥調製、出荷に至る水稲作機械化一貫体系が曲がりなりにも完成すると、その作業負担軽減効果から機械化できない作目は滅び産地は衰退するとの危機感が産まれ、他作目の機械化が推進され、今日に至っているといえる。一方、筆者が経験した1990年代の発展途上国に於いては、労働力を吸収できる場として農業は重要な位置にあったため農業の機械化はタブー視され、役畜の主力は水牛であった。
 話を戻すが、1888年に三田農具製作所は役目を終え民間に払い下げとなる。この間、1876年には札幌農学校、1877年には駒場農学校等が設立され、人材養成も進められている。1891年に農学会が提案した「興農論策」には重要な転機となる方向が示されている。これを基に1892年に「農事試験場設置法」が成立して、1893年に農商務省農事試験場本場(現、東京都北区西ヶ原)が創設される。その後、日清・日露戦争を経て、1911年農事試験場種芸部に農具係を設置して関連する研究が始まる。その重要な動機は、「農業技術研究所八十年史」によると、1908年農商務大臣大浦兼武の英国出張に、当時農商務省農事試験場職員(のちの農事試験場場長)安藤広太郎が随行し、欧州各国における農機具の調査を行った結果、日本国内農機具の改良発達を図ることを痛感したためであると記されている。これを機に1911年に帝国農会主催で始まった全国農具博覧会はその後道府県や府県農試が主催する全国農機具共進会として毎年のように各地で開催された。審査格付けされた出品物が展示されるため農民にとって貴重な農機具選択の場でありメーカーにとっても改良意欲の促進に繋がることから盛況だったと推察される。以降このような共進会制度、依頼調査制度、農林省が大日本農会に委託して実施した懸賞募集制度、農機具比較審査制度が発足し、農事試験場は各種農機具の開発改良を促し、性能向上に大きく寄与した。1924年には農事試験場鴻巣試験地(現、埼玉県鴻巣市)が発足した。農機具試験施設の完成を待って1926年に本場から担当者7名が鴻巣へ異動し、農業機械の近代化に関する本格的な試験研究が始まる。測定機器の試作や各種作業機の測定・評価方法の開発等を精力的に進め、世界の最先端を歩んでいたとOBは自負している。
 1953年に「農業機械化促進法」が制定され、1962年に農林省関東東山農業試験場は農事試験場となり、農機具部は機械化栽培法や作業体系を行う作業技術部と、農業機械の改良研究や国営検査・鑑定を行う特殊法人農業機械化研究所に分かれた。その後機構改革等紆余曲折を経て2016年に農業技術革新工学研究センターと名称を変えた。2018年に「農業機械化促進法」は廃止されたが、2017年に成立した「農業競争力支援法」により、引き続き農業機械の研究開発と安全性検査等の重要性が認められ再出発している。
 当センター大宮本所構内には新しい農業機械を展示しているショールームと、一般社団法人日本機械学会の機械遺産に認定された古い農具を展示した資料館があり、見学者にとっては貴重な場となっている。また、幼稚園児の落ち葉拾い、中学生の職場体験など地域にも貢献している。今年は残念ながら新型コロナウィルス感染防止のため中止となった桜の時期の一般公開では、機器のデモンストレーションが人気である。
 次回から農作業順に紹介していくが、耕耘作業に関連した話から始める。

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【鷹尾宏之進(たかお・ひろのしん)】


 農学博士。1968年東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了農業工学専攻。特殊法人農業機械化研究所入所、主任研究員、研究調整役、1995年農水省食品総合研究所食品工学部長、1997年生研機構基礎技術研究部長、2003年退職。2006年日本食品科学工学会専務理事、2018年農研機構農業技術革新工学研究センターシニアアドバイザーとして現在に至る。学会活動により農業機械学会功績賞、農業施設学会貢献賞を受賞、日本食品科学工学会終身会員。

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